神様なんていないんだ
翌日の朝、ボクが基地に向かうとケイタが先に来ていた。
「様子は?」
ボクは恐る恐る尋ねた。
「昨日よりはいいんじゃないか?」
「少し、元気になったように見えるぜ。」
そう言いながらケイタは子犬の包帯を換えてやっていた。
「お金、この中にためていこう。」
ボクはそういって、持って来た陶器の貯金箱を差し出した。
「牛乳、ここへ来る前に取って来た。」
「今日は冷たくても飲んでるよ。」
「ちょっとは元気になったんだな。」
ケイタとボクは顔を見合せて微笑んだ。
「俺もお金集めてくるから、学校からは別々に行動しようぜ。」
そう言いながら、その日ふたりは登校した。
ボクは学校帰りに鉄くずを集めた。
集めた鉄くずは、近所の屑鉄屋のおじさんが買い取ってくれるんだ。
特に真鍮は高くとってくれる。
だから、ボクは見境なく車やトラックのタイヤからキャップを盗む。
急いでタイヤのキャップを取ると「キィィーン」と、とてもかん高い大きな音を出す。
だからゆっくり、そっと少しづつキャップから空気を漏らしながら外さないといけない。
一方ケイタは、ビールの空瓶や一升瓶を集めては酒屋に持っていく。
空瓶がそれほど見つからない時は、別の酒屋の裏から空瓶を盗んでは別の酒屋へと持っていった。
こうして毎日、学校がえりはモノ集めに没頭し、基地に行っては子犬の怪我を見ては包帯を換えてやる。
そして数日たったころになって気づいたことがあった。
この町には動物病院がなく、治療費も幾らいるのかも分からない。
それでもとにかく、お金をためることにした。
子犬の容態はといえば、怪我をした翌日以上に良くなる様子がない。
特にお腹の怪我は、何日たっても良くはなってくれず、だんだん弱っていくようだった。
ケイタは何だか、そんな子犬を見るのが忍びなくなっていたのだろう。
朝は一緒に登校しなくなったし、学校でボクと会ってもお金だけを渡す。
そしていつしか…基地へも来なくなっていた。
ボクはその間、朝も夜もひとりで子犬の看病した。
作品名:神様なんていないんだ 作家名:天野久遠