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北極星が動く日

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「プロのスカウト?」
 茂樹が驚いた声を出すと、松本は照れたように笑いながら頷いた。
 秋季京都府大会決勝戦の翌日に、学校の教室で茂樹は松本から、試合後にプロのスカウトから激励を受けたのだと教えられた。
「凄いってそれ! そうか、プロか……」
「いや、褒められただけやけど」
 そう言って松本は否定するが、満更でもなさそうな顔だった。当然だろう。彼が以前から、プロ野球に対して強い憧れを持っていることを茂樹は知っていた。
「やっぱり松本はプロ志望?」
「ああ。やっていけるかは分からんけど、憧れてる環境でプレーできるって最高やしな」
「頑張れよ。そのためには近畿大会で結果残さなあかんな。選抜に出られたらかなりのアピールになるぞ」
「選抜か……。そうやな、頑張れ俺。頑張れ丹染ナイン」
 笑っている松本を見ながら、茂樹は不思議な感覚を持った。入部して以来ずっと一緒に行動しているチームメートが、プロ野球という環境に進む可能性があるのだが、全く実感が湧かない。
「プロか……」
 松本に聞こえないくらいの小さな声で茂樹は呟く。自分もプロ野球選手になれたりするのだろうか。
 茂樹は自分の体を見てみる。身長は174センチメートルで、体重が67キログラムだ。野球選手としてもっと大きくなりたいが、なかなか無理がある。この体格では丹染高校の中心打者として活躍するのですら難しい。ましてや、プロなどはとても無理だろう。そもそも実力が足りていないのだが。
「茂樹、危ない!」
 急に声が聞こえた。左から聞こえたために彼が顔を左へ向けると、目の前に硬式ボールが見えた。
 咄嗟に茂樹は左腕でそれを掴む。バランスを失い、右へ少しよろめいた。彼はため息をつくと、声の主である香坂を軽く睨んだ。香坂は苦笑いしていた。
「ごめん。ちょっと滑った」
「教室でキャッチボールするのやめろって。怪我人がでたらどうするんや」
「キャッチボールってほどのもんじゃないって。ただの投げ合い……みたいな? 怒るなって。お前の反射神経を信じてこそのミスやねんから」
「アホか」
 茂樹はそう言ってボールを返す。こういうバカなことをやるのは楽しいものだが、硬球は当たれば痛いため、教室でするのはやめてほしいと茂樹は思っていた。
「俺の反射神経か……」
 香坂から言われた言葉を自分でも言ってみる。なかなか良い響きだった。実際彼は、俊敏な動きで行う守備を評価されてレギュラーの座を獲得したのだ。
 華麗な守備を誇る二塁手、としてのプロ入りもあるかもしれない。
「なんてな」
 過ぎた妄想に対し、茂樹は自分で突っ込む。そのときにちょうど、休み時間の終了を知らせるチャイムが鳴った。
作品名:北極星が動く日 作家名:スチール