小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

北極星が動く日

INDEX|5ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

 
 松本は9回表の先頭打者をサードゴロに打ち取ると、続く打者からは三振を奪い、あっという間に2死となった。
「ナイスピッチ!」
 茂樹は松本に声をかける。ここまで彼は打者29人に対して被安打が1、与四球が2という驚異的な成績を残している。
 しかし、唯一許したヒットの内容が問題だった。完全な失投を打たれたそれは、相手の5番打者にスタンドまで運ばれたのだ。
 茂樹はスコアボードを再度見る。試合の終盤になってそれを見る回数が極端に増えた。 信じられないのか、それとも信じたくないのかは自分でも分からなかったが、何度見ても5回表には『1』という数字が記されていた。今回もやはりそれは残っていた。そして丹染高校の列には0しかなかった。
 以前、ゼロ行進で進んでいた試合の解説を務めていた元プロ野球選手が、そのスコアをたこ焼きと表現していたが、まさに茂樹にはそう見えた。ただ、真ん中にある爪楊枝がとても邪魔だった。
 松本が3人目の打者からも三振を奪う。興奮からか、打者が空振りした瞬間に彼は吠えていた。茂樹が彼のそういう姿を見るのは初めてだった。
 スコアボード上にある9回表の欄に、新たなたこ焼きが追加される。両校合わせて16個目だ。
「俺たちは強い……」
 茂樹は呟きながらベンチへと走る。今の守備で疲れはある程度無くなっていた。
 自分たちは強い、と再び心の中で呟く。何度も何度も呟く。甲子園の常連校は自分たちだ。どこの高校よりも練習してきたのは自分たちだ。どこの高校よりも強いのは自分たちなのだ。
 17個目のたこ焼きを作るわけにはいかない。むしゃくしゃした気持ちを落ち着かせるために、茂樹はベンチに戻ると松本と同じように吠えた。しかし落ち着くどころか、それはむしろ余計に彼を興奮させた。
作品名:北極星が動く日 作家名:スチール