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ときたけいこ
ときたけいこ
novelistID. 659
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川原の石さえあればいい

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静寂の川原。
 ぼくは、ここをそう呼んでいる。
 川と木と石だけの世界。
 だれもいない。
 ぼくだけの場所。

 ぼくは、いつも石の上にいる。
 この川原にある石の中で、いちばん大きな石。
 正しくは岩なのかもしれない。
 でも、石の方がこの川原にはしっくりとくる。

 石の上で羽ばたき、石の上で歌い、石の上で昼寝をする。
 もうずっと前から、ぼくは石とともに生きている。
 石をはなれるのは、食事のときだけだ。
 石はなにも言わない。

 その日、遅めの朝食から戻ると、石はひとりではなかった。
 人間の少女が、石にすわっていた。
 少女はじっと川をみつめている。

 どうしよう。
 ぼくの場所なのに。
 つついて追い返してしまおうか。
 そう思って石に近づいたとき、少女が立ち上がった。

 
 ぼくは数歩、後ずさる。
 そのぼくに、気がついたのか気がつかなかったのか。
 少女は石からおりて、去っていった。
 川原に静寂がもどってきた。

 次の日、少女はまたやってきた。
 こんどは石の上で寝転がっている。
 力のない様子で。
 ぼくはそっと石から離れた。

 それからも毎日のように、少女は石の上にいた。
 すわっていたり、寝ていたり、踊っていたり、食べていたり。
 その度にぼくは、遠くから少女を見ていた。
 少女が帰って、石が解放されるのを待ちながら。

 しばらくたったある日。
 少女はとつぜん歌いはじめた。
 その歌を聴きながら、いつの間にかぼくも歌っていた。
 少女の歌は、ぼくの歌と同じだった。

 ぼくは歌いながら、石の上にのぼった。
 少女はぼくの横にすわって、歌いつづけた。
 静寂の歌を。
 川原の歌を。
 石の歌を。

 石はじっと動かない。

                            (おわり)