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your life

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[ your life ]



「疲れた」

一人、部屋で床に座りポツリと呟いた。

返事をしてくれる人はいないが、
とにかく一人になりたかったからかえって好都合だった。

「…このままやってけるのかな……」



好景気と言われた時代は過ぎ、大卒でも仕事にあぶれる昨今。
そんな中で俺は幸運にも…いや、もちろん努力はしたのだが、
世間一般で言われる“有名企業”に勤めることになった。

都会での一人暮らし。天に向かってそびえ立つ高層ビル群。
機械的な動きで満員電車から吐き出されるサラリーマン達。
学生時代憧れた大企業の戦士たちの表情はやや疲れ気味だった。


同期は良い奴が多かったが、やはり大手に受かる人間というのは
プライドが高い。それに伴う能力もずば抜けていて、
大学ではちょっとした有名人だった俺も並みの人間でしかなかった。

とにかく自分にとって価値があるか否かで付き合う人間を選別していく。
無意識なのかそうでないかは分からないが。

入社を決めた当時から分かってはいたが慣れるまで時間がかかりそうだ。



「あ、どうぞー」

ドアをノックする音がして意識を現実に戻す。
地元が東京から遠く離れている俺は数年間は寮生活だ。

顔を覗かせたのは同期で今のところ一番話せる友人だった。

「ちょっと良い?」
「大丈夫だけど…どうかした?」

鍵掛けないのか。

後ろ手にドアを閉めて彼…水野は少し眉をひそめた。

「ああ、忘れてた」
「誰か侵入してきたらどうするんだ」
「別にどうも」

はぁーと大げさにため息を吐いてから、
本来の目的を思い出したのかコホンと軽い咳払いをした。

「望月、お前に一つ頼みがある」
「お断りします」
「…内容くらい聞いてくれ」

こいつは確かに良い奴だと思うが
新生活に慣れてない中で面倒事は避けたかった。

「ダメ?」
「……」

どうせダメだと言っても言うんだろうけど、
無駄な応酬を暫し続けた後改めて話を切り出した。

「今週の土曜日合コン行こう」
「無理」
「早っ!女子大生だぞ~若くて可愛いぞ~」
「…言わなかったっけ?俺、彼女居るんだって」
「聞いたし俺も居る」
「……」

開いていた資格のテキストを閉じて、水野に向き直る。

若いって言ったって俺たちだってちょっと前まで大学生だったじゃないか。
それに…

「彼女居るなら合コンに行くな」
「だって」
「ともかく。俺は行かないから他当たってくれ」


――…

金曜の夜。
オフィス街は普段とは少し違った空気に包まれる。

一週間が終わったという晴れやかな気持ち。
飲み会へと出かけていく浮足立ったサラリーマンたち。


「おい、望月…店入ったらもうちょい愛想よくしろよ」
「………うるせー」

俺は何故ここにいる。
同期と飲み会って言うから水野についてきたのに、目の前の店は
どう見ても飲み屋じゃない。女の子が好きそうなシャレたレストランだ。

「あと二人は俺の大学時代のダチだから」
「余計帰りたい。俺だけ場違いじゃん」
「大丈夫だって。俺がフォローするから」

こうなったらもう合コン自体をグダグダにしてやるか思いっきり楽しむしか選択肢がない。
水野の屈託のない笑顔にはぁっと大きなため息を吐いて俺たちは店内へ。


「あ、」
「なに」
「女の子からメール」
「なんて」

今日無理になっちゃった。絶対埋め合わせするからごめんね。

水野が読み上げたメールの内容に俺は拍子抜けした。

「もうちょっと早く言ってくれりゃ良いのに」
「彼女居るのに合コンなんかしようとするからバチが当たったんだ」
「はいはい。悪かったね」

男二人でこのレストランは気まずい。
水野も同感らしく友達二人に謝罪のメールを入れてから場所を変えようと言った。

「メールだけで大丈夫なのか?めちゃくちゃ怒ってるんじゃ…」
「また次誘うって書いたから大丈夫」

俺の心配をよそに、近くの居酒屋行こうと歩き出した。

「変な奴」
「なんで?」
「ドタキャンされたのに、機嫌良さそう」

前を歩く水野がピタっと止まって振り返る。

こいつ一人が居れば女の子は皆上機嫌だなと思うほどの外見だ。
背が高いから余計上等に見えるだけだと信じたい。

目が合って、俺が怪訝そうな顔をすると今までの笑顔とは違った
なんていうか子どもが悪戯を思いついたような、そんな表情でこう言った。

「だって、最初からお前だけ居れば良かったから」

え?と聞き返す前にネクタイが不意に引っ張られてバランスを崩す。
見上げたら距離が近過ぎて、驚きに目を閉じて、そして――

「なーにビビってんだよ」
「な、…お前……!」


いつもの笑みを浮かべて、早くと促す水野。

俺は…何を期待していたのだろう。


「望月」
「………」
「今日、寮帰らないよな」

きっと朝まで飲むからだ。そうに決まっている。
疲れているから思考がおかしくなっているんだ。


夜の街を再び二人は歩き出した。



to.
作品名:your life 作家名:愛架