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大人のための異文童話集1

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第5話 白雪姫と魔法の鏡



それはそれは、遠い昔のお話。

私がその少女の姿を見たのは、もう、記憶の奥底ほど…。
それは遠い遠い昔のことかも知れません。

そう、あれは…
世界中で一番美しい女性を映し出すようにと、女王から言われた時のことでした。
私が映し出したある少女は、眩いばかりの光を放ったのです。

その時からこの心は、“白雪姫”と呼ばれるその少女に奪われしまったのでした。
女王に彼女の姿を映すように言われる度、私の胸の奥は幾度となくときめきました。

しかし今では…
そんな素敵な彼女の姿も忘れ、声も忘れてしまったようです。

毎日を期待と絶望で繋ぎつつも、決して彼女の邪魔にはならぬようにと。
この暗い部屋の片隅で、唯々私の出番を待っていたのです。
いつに、いつかにと…ただひたすらに。

もう無駄と感じる気持ちを騙しては、騙す気持ちにまた騙されている。
それでもそんな自分が幸せだったのでしょう。

そしていつしか置物でしかなくなっていた私です。

それでも…
もう一度と叶わぬ願い、ああ、彼女の姿を見たい、声を聞ききたい。
そのためだけに私は、だだ薄暗い部屋の隅の置物でしかない毎日を過ごし持つのです。