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コトコト(序)

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コトコト(序)/090717


 穏やかにあたしが消えてなくなることを夢見ているあたしはそんなどこにでもある生き方をしていてふと気がついたらたくさんの血を流していた。そのたびに、優しい優しい紺ちゃんに怒られるけれど、なんだかどうしようもないのだった。
 紺ちゃんとあたしは幼なじみでもう何年も一緒にいる。こんなあたしに紺ちゃんを付き合わせるのはいい加減に止さないと、と思う。でもあたしはあたしの脆弱とはまた別の次元で紺ちゃんを独り占めにしたい気持ちを抱えているから困る。
「何度言ったらわかるんだよお前は。俺はお前が手首を切るたびに悲しいの!」
「うん、ごめんねえ」
 あたしはふわふわ笑う。ああこいつわかっちゃいねえと紺ちゃんは唸って、あたしの頭を撫でてくれる。たくさん、撫でてくれる。
「疲れる。けどしょうがねぇな根気よく行くわ」
「紺ちゃん、大好きい」
 サッカーをやる紺ちゃんの体はまんなかに芯を持ち始めていて、抱きついても昔みたいにふらふらすることは少なくなった。紺ちゃんはあたしの包帯を痛そうに避けて(おかしいなぁあたしは痛くないのになぁ)、肩から背中にかけて抱っこしてくれる。飛び上がりたいくらいに浮かれる。
「大好きなくせになんでわかんないんだかなあ」
 そうなのかなあ、ごめんねえ。でもあたしにとってはそれらは無関係なものなのだ。包丁を探すときあたしは紺ちゃんを忘れたり、覚えているのに作用しなかったり、する。でも全部片づけて紺ちゃんと向かい合うときたまらなく紺ちゃんを大事に思うのも本当だ。だから紺ちゃんのお話は根っこの違うものをひとまとめにしているようでよくわからないのだった。
「俺が好きなら、死ぬのは、だめだ」
 噛んで含めるように紺ちゃんは言って、あたしはぽかんとしたまんま、紺ちゃんは鋭く眉根を寄せたまま、唇をあわせた。紺ちゃんのあったかさを啄むだけであたしは満足していますぐ地面の底が抜けてあたしどろどろの溶岩で溶けちゃったらいいのに、とねがうのだった。
作品名:コトコト(序) 作家名:RIO