世界が終わる夜に
日のあたらない、埃で満ちたせまい教室。僕と彼女だけが共有した秘密の空間。「もうやだよぉ」、と声を上げて泣いた彼女はもう此処にはいない。僕の散らかった部屋の中心にぽっかりと空いたミステリーサークルは、本当にだたのミステリーサークルでしかなくなった。彼女が、いた証。クラスメイトですらない僕を、「普通の男の子」と言った彼女は、もういない。僕のぼこぼこの頭と、彼女がつけた傷でいっぱいの体が、唯一の証明。彼女は人を傷つけてでしか自分を救えなくて、でもそれ以上に自分も傷つく子だったから、人を殺めた彼女はいま、どれほどの傷を負って泣いているのだろう。
教室の後ろの、運動部用のロッカーを開ける。剣道の面や薄汚れた柔道着に根元が埋もれて、一本の金属バットが立てかけてあり、僕はそれを手に取った。手始めに軽々しく彼女の名前を口にするあいつから、僕の痛みを分けてやろうと思う。
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終わらないいたちごっこ。世界が終わる夜、僕は君に恋をした。