SとMの法則
俺は口の中に含んだ金平糖をガリッと噛み砕いた。
ジャリジャリする残骸を更に歯で磨り潰す。
あんまり、甘くないなあ。
口の中の金平糖が消える前に新しい金平糖を口に含む。
白色の粒を砕けない程度に甘噛みする。
凸凹とした断面を舌と歯で堪能すると、少し力を込めすぎてしまい、またガリッと砕いてしまった。
ジャリジャリとする残骸を磨り潰す。
そしてまた、一つ口に金平糖を運んだ。
「お、今日は金平糖か」
前の席にドスンと塊が降ってきた。
俺は見つめていた一点から視線をそちらに移す。
赤く染められた傷んだ髪に着崩された制服。
いかにも真面目じゃないこいつは俺のオトモダチだ。
「おはよん、いっちゃん」
「おう」
足を組み、俺が食べていた金平糖を横からつまんだ。
甘い、と呟く。
そして俺と同じようにジャリジャリと噛んだ。
「今日も見てんのか」
「うん」
「筋金入りのストーカーだな」
「だって愛してるんだもん」
あー、はいはい、とあしらわれてしまう。
自分から振ってきたくせに。
俺は口の中にある金平糖の粕を舌でかき集めて飲み下す。
そしてまた彼を見た。
窓側一番後ろの俺と、対角線に座る彼が俺は好きだ。
黒髪にすっきりとした顔立ちの彼、菘くん。
菘くんはいつも一人だ。
今だって自分の席に座ってPSPしてる。
そこは普通、小説とかじゃないのって思うが現代男子はPSPらしい。
何のソフトをやってるかはさっぱりだけど、足を組んでる様は絵になるなあ。
菘くんはいつも一人だが、挨拶してるとことか見るし、友達がいないわけでは無さそう。
だけどつるむのは面倒だから一緒にいないみたい。
俺等の年頃ってつるむのが普通みたいなとこあるから、菘くんみたいな人は珍しい。
故意に強いたげられる、つまり苛めにあってるのとは違う、自分の意思でそうしてる感じ。
菘くんはかっこいいなあ。
かっこいいから当然女の子にもモテる。
この間、ベタだけど下駄箱に手紙はいってるの見ちゃったし。
菘くんってば中身も見ずにゴミ箱に捨てたんだよ。流石だよね。
「芹、口からヨダレ」
「ソーリー」
俺はじゅるじゅると垂れていたヨダレを啜った。
いつからか分からないけど、菘くん見るとヨダレが垂れちゃうんだ。
俺は残りを手の甲で拭う。
するといっちゃんが、汚ねぇ、といってティッシュをくれた。
可愛い女の子いっぱい!と書かれたいかにもって感じのティッシュの封を開けて口と手の甲を拭った。
そしてティッシュの残りを返そうとしたら、お前にやる、と言われてしまった。
パッケージがあれだが、貰えるものは貰っておこう。
俺はティッシュを制服の胸ポケットに突っ込んだ。
それでね、手紙捨てちゃったの菘くん。
当然女の子は怒るじゃん。
でもそんなのその子が悪いんだよね。
今時、下駄箱とか古いし、ばっちいし。
何より、後輩だったといえ、菘くんのこと顔ばっかりで何も知らなかったってことでしょ。
本当に好きなら菘くんのことちゃんと理解してアピールしないと。
怒るなんてもっての他だよ?
菘くんは女の子にも容赦ない正真正銘のドSなんだから。
ほら今だって、ずっと見てた俺の事、すっごいキモいもの見るような目付きで見返してくれてる。
「どうしよう、興奮してきた」
「お前、キモすぎワロタ」
あ、逸らされちゃった。
いっちゃんが、不思議な言葉を喋ったけど今はそれどころじゃない。
菘くんが俺の事見てくれただけで充分。
だって今、放し飼いプレイ中なんでしょ?
「お前がそう思ってるだけだけどな、ドM」
そう、俺、ドMなの。
肉体的に痛いのはあんまり好きじゃないけど言葉で責められるとゾクゾクしちゃう。
だからドSな菘くんとはぴったりなんだ。
菘くんなら肉体的に痛いことされてもいいなあ。
はやく俺の事、詰ってくれるまで仲良くなりたい。
そんな思いを込めて、菘くんを見ながら金平糖をまた一つ口に放り込んだ。