指切り
まだまだ肌寒い部屋の空気と窓の外から流れてくる生温かい外気が入り混じって教室の中はとても心地が悪い。
窓際にたたずむ少女を見やると、彼女はこちらを見もせずにソプラノを零した。
「私には、指がないのよ」
表情はうかがえない。ただ、その声はあまりにも大きな感情を押し殺しているように思えた。
その感情が悲しみなのか、怒りなのか、憎しみなのか、はたまた喜びなのかはわからない。
「あるじゃん、指」
「形だけはね」
その手に付いている指が形だけのものだというなら、形だけではない指とはどのような指なのか、というような
俺の言葉を遮るように彼女は言う。
「私は、嘘を吐いたのよ」
「ああ、指きり?」
彼女はやっとこちらを向くと、薄く笑った。形のよい唇が弓なりになる。
「でも、あれって嘘吐いたら針千本飲ませるのがセオリーなんじゃない?」
「あえてセオリーから外れるのがあの人のやり方よ」
「あ、そう」
興味なさげに俺がそっぽを向くと、指がないと言うその少女は僅かに眉をひそめた。俺はあわてて話題を変える。
「にしても、どういう約束をしたのさ」
「私が今日死ぬっていう約束」
ガタン、という大きな音と共に今まで座っていた椅子が倒れる。
「ばかじゃないの」
低く掠れた声でそう吐き捨てて、驚いた顔をしている指なしのもとへ近づく。彼女の息がかかる程の距離まで詰め寄り、
思い切り睨めつけると、眉を下げながら彼女は笑った。
指切り
(次の日、指なしは死んだ)