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18年、3m

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珍しいものを見たもんだ。
って、秋を知らない人は思うのかもしれない。


「ん、」


椅子の上でもぞもぞと、居心地悪そうに身じろぐ。
ちゃんとベッドで寝ればいいのに。


(寝てるときは18歳だ)


眉間のしわも寝てる時はほとんどない。
普段はぐりぐりやったところで大抵不機嫌そうなのに、睡眠欲って不思議だ。
久々に部活がオフになったから、幼馴染と一緒に実家に帰ってきた。
テトリスでもやろうかと思って隣から乗り越えてきたら首にヘッドホンをぶら下げたまま熟睡モードだった。
謎の言語(多分英語のリスニング)を流し続けるコンポの電源を切って、真正面に体育座り。


「・・・・・」


ふと、懐かしいと思った。
中学の頃とか物心つく前の曖昧な記憶とか、確信はないけど見たことあるような、こういうのって何て言うんだっけ?デジャブ?


「あっくん」


懐かしいついでに、呼んでみたくなった。
妙に恥ずかしくなって帰ろうかと思った、けど。俺の部屋の窓は少し高くなってるから窓伝いには帰れない。
秋の前を通らないと部屋を出られない。
通ったら起こすかもしれない。
なんだか、正面で眺めてる言い訳みたいだ。


(きれーな顔してんだよな)


まじまじと眺めてみることなんてそうそうない。
生まれてからこの方、何故か小学校中学校もずっと同じクラスで、高校まで一緒になっちゃって。
だから2年になってクラスが離れたとき、変な感じがした。
隣にいるのがデフォルトっていうか、当たり前になっちゃってたっていうか。
頭よくて、風紀委員なんかやってる秋と、学年でも指折りの馬鹿でどちらかといえば風紀乱し気味な俺。
共通点なんて、同じ人間なことくらいだ。


「・・・祥?」
「え、あぁ、おはよ」
「何でそんなところに座ってるんだ」


ずり落ちた眼鏡をかけ直してヘッドホンを外す。
寝起きで掠れた声も久しぶりなような気がした。
寮の部屋までも同じなんだから寝起きだってまぁ・・・それなりに目撃してるはずだし、あいさつも普通にはするし、雑談も人並みにはするし。
何だこれ。
変な感じがする。
言うんならそう、恋、にも近いような。


(いやいやありえない、だってもう10年以上一緒なんだよ!?もしかして一緒にいすぎて麻痺しちゃってる!?)


うちのクラスはスポーツクラスだから女子がいない。
俺の所属するサッカー部にも女子マネなんていない。
だからもしかして、女子の代わりと言っちゃなんだけどそういうことなのか、女子とのかかわりがなさすぎて頭がおかしくなっちゃってるのか。


「祥?聞いてるのか?」
「あーうん聞いてる聞いてる。んで何だっけ」
「聞いてないだろ」
「ここに座ってる理由でしょ?」


テトリスしようと思って。
そう、ちゃんとした理由を言うつもりだった。
というか、言ったはずだった。


「そいやさ、秋って好きな人いんの?」
「・・・ちょっと待て」


うん、俺が待て。
どうしてそんなとち狂ったこと聞くかな、俺。


「やっぱなんでもない、本当なんでもない。テトリスでもしようかと思ってさ」


慌てて取り繕う。
寧ろ慌てた方がおかしいのか?思春期の少年としてこういう話題は焦ることでもなかったのか?
だめだ、考えるほど泥沼だ。
変な墓穴掘りそうで怖い、まだ自分の中でも分かってないことを口走ったら俺もう死ぬしかなくなる。


「変な奴だな・・・コントローラーは持ってきたんだろ」
「持ってきたよ」
「じゃあ、待ってろ」


今確か妹に貸してたはずだとか何とか言って立ちあがる背中を見送る。
不意に上がった心拍数はなんとか落ち着いた。
深呼吸を2、3回。


「そうだ、」


振り返って特に表情を変えないままで秋が言った。


「今は一応、いない」


ぱたん、ドアが閉まる。
あー、もう俺意味がわかんない!
ほんとに、ほんとに。
俺、秋のこと好きになっちゃったみたいじゃん。






作品名:18年、3m 作家名:蜜井