スーツケースには私の骨が入ってる
あぁ仕事疲れた
あぁ通勤電車
あぁやっと家
あれなんで電気
あれだれこの男
ガンッ
簡潔に言うとこんな感じだ。
…なんともあっけない人生だった。
なのにちっとも悲しくない。
男はなにくわぬ顔でスーツケースを引いていく。
私はそのなかでカラカラ揺れる。
好きな食べ物も趣味もなかった。
恋人もいないし別に欲しいとも思わなかった。
仕事だって全然楽しくない。
…そこまで考えてふと気付いた。
あぁそうか…
死んでいたのか、初めから。
どうりで悲しくないはずだ。
涙だって骨じゃなくてもだせないわ。
男は船にのる。
大事そうにスーツケースを抱えて。
そしてわたしごと落とすのだ。
この暗い海に。
スーツケースがガツンと岩にぶつかった。
中のビニール袋も破けて私が散らばってしまう。
私は真っ暗だろう海に飛び出した。
あ
なんて
なんて綺麗
きらきら
きらきら
どうして
今更…
死んでから生を感じるのか
私は嬉しくて涙を流した。
作品名:スーツケースには私の骨が入ってる 作家名:川口暁