キズハ
遠い遠い、山のかなたの空に群青を帯びて夕日が消え行く。
真白い月が、ゆっくり弧を描いて昇っていくる。
吐息を吐き出すと、ゆらり煙ったコンクリートは
なおさら熱く、足音を飲み込んだ。
今日、キズハに一時間だけ、僕は買われた。
学校から離れた土手の上
キズハはいつものように
少しだけ微笑んで、少しだけ寂しそうに
なんでもないことのように立っていた。
5分ほど遅れてきた俺を怒りもせずに
来てくれてありがとう、という。
ありがとうも何も。
13万も出されて来なかったら
詐欺になるじゃないか、と言うと
鈴音のような綺麗な声で笑った。
13万円で一時間。
俺よりも貧乏なキズハに
よく、出せた金額だ。
どうする、エッチする?
何かする? と、聞くと
首を振って、道、歩いて。一緒に。
ここから丁度一時間で
スーパーに着くから。
と、言った。