リーちゃん
リーちゃんの右手のひらのあざは
「許しがたいあざ」と呼ばれていて
前世罪を犯したものにしか
現れないと呼ばれていて
そんなのは迷信だと
僕はいつも思うけど
この町のだいたいの人は
信じてる
「戻ろうか」
突き当りまできて
リーちゃんが言った、ぽつん
声がやみに落ちる
タンポポ畑は
もうとおに群青を過ぎ
うす暗い白い光を放ってる
寒いね、というと
リーちゃんは嬉しそうに
「俺のはおり、やろか」って言った
うん、リーちゃん
リーちゃん、また来ようね
また、温泉来ようね
嬉しくって
手を握った
嬉しくって
リーちゃん、と何度も呼んだ
リーちゃんも嬉しそうに
何度もゆるちゃんって言うから
余計嬉しかった
たんぽぽの白いわたげが
ふわふわ飛ぶ
リーちゃんの顔が
急にゆがんでそれから無表情になって
かたまった
「あ、リーさん」
駐在さんだった
リーちゃんはいつも
あざを隠して
道を歩くときは
一生懸命
背筋を伸ばして
きちんと歩いている
誰か、人に会うとき、
リーちゃんはすごく緊張する
そして僕の手のひらを(きっと無意識)ぎゅうぎゅう握って
汗びっしょりになってる
いつか、ばれないだろうか
いつ、ばれるだろうか
僕に会ってから2年しか経っていないけど
リーちゃん、リーちゃんが今、どう思っているのか、とか
リーちゃんがどんな風にないているのか、とか
僕は手に取るように分かる
わかるんだよ