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リーちゃん

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リーちゃんの右手の話

彼の右手には
小さな無数の引っかき傷がある
青白い少し大きなあざを中心にして
何本も、何本も、蚯蚓腫れのように
消えることがない

その右手を見ながら
僕は寒いな、と
少し思った

風が冷たい
春の風は実のところ
体温を奪うには十分なほど
冷たいんだ

リーちゃんの白い腕についた
ちいさないっぱいの赤い傷
リーちゃんが
あざを嫌がって無意識に掻いた傷
せめてつめを切ればいいと思うのに
リーちゃんは、つめを切るのも苦手だ

たまに血が出て痛がっている
リーちゃん馬鹿だなぁ、というと
なにを!と怒ったまねをして
ちょっと泣きそうな顔になる

それが可愛かったけど
悲しかった

目をそらすと
もう空の赤は群青に変わってる

やっぱり馬鹿なのかな
とか言う

だからいつも、頭をはたいてやる。
いつものパターン
そうだみかんを食べたら、
もう一度傷の手当てをしてあげよう
そして
少し力を込めて
はたいてやろう。
そうするとリーちゃんはちょっとだけ
安心したような顔を、するんだ。
本当に、少しだけ。

作品名:リーちゃん 作家名:夜鷹佳世子