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リーちゃん

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自分のことを話そうと思う
むかしのことはよく思い出せないけど
リーちゃんに会う前の、僕を

むかし僕は羊飼いをしていた
正確に言うと
羊を飼っている人からお金をもらって
羊の番をしていた

リーちゃんと違って
僕には父も母もいない
生まれながらに「旅人だった」
(とリーちゃんはよく言う)
(何が「旅人」か、よく分からないけど)

柵に腰掛けて、羊を見ているとき
たまに、朝日が昇るのを待ちわびていたとき
世界が白く変わるのを見たとき
たまに、夜通し草木が啼くのを見ていたとき
やっと雨がやむのを見たとき

僕は父と母を思い描いた
どんな人だったんだろう、とか
どんな風だったんだろう、とか

想像は頭の中で膨れ上がって
彼らは僕によるご飯をご馳走してくれたり
あったかな布団で一緒に眠ったり
笑いかけたり、笑いあったり
一緒に歩いたり一緒に散歩したり
そんな風に
ずっと浸っていたいほど
出来上がっていった

僕には父も母もいない
だからたまに
自分がここにいることを不思議に思う
父も母もいないのに
よく、生まれてきたな、とかそう思う。
そう思うと、僕が少し愛しい
リーちゃんに言うと
笑われそうな感覚だから
これは僕だけの秘密

僕はきっと女王様の、王様の息子
僕はきっと神様の女神様の息子
どんな子供にもなれる僕を
僕はそんなに、嫌ってはいない

作品名:リーちゃん 作家名:夜鷹佳世子