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VARIANTAS プロローグ

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[西暦2170年某日某所HLV打ち上げ基地」
 巨大なHLVが、発射の時をまだかまだかと待っていた。
 打ち上げ台の傍には、防爆圧構造の観覧席があり、そこにはたくさんの技術者や、いかにも裕福そうな出で立ちの老人達が、会話をしながら発射の瞬間を待ちわびている。
 その中に混じる、一人の美しい白衣の女性。女性は腕に小さな女の子を抱きながら窓の外のHLVを眺め、わが子に言い聞かす。
 ――いい? パパはこれからとっても大事なお仕事に行くのよ。
 ――みんなが……、あなたが幸せに、平和に暮らせる世界を作るために。
 女の子は聞き返す。
 ――みんなが幸せに?
 女性は答える。
 ――そう。戦争をとめて、世界を元通りにするの。
 女の子は、目に涙を溜めながらもう一度聞き返す。
 ――どうしてお父さんなの?
 答える女性。
 ――お父さんはね…
 女性が次の言葉を言いかけたとき、 HLVは白煙を上げながら火星の空を駆け昇って行った。
 それを見送りながら、女性は答える。

 ――お父さんは“勇敢な人”だから……










VARIANTAS











[西暦2186年3月24日0130時、火星赤道上臨時前線基地]
 火星の紅い大地に、荒涼とした風が吹きすさぶ。
 生命の息吹を感じない渇いた大地に赤い砂が舞い上がる中、その建造物はまるでバベルの塔の様に屹立していた。
 風速100kmを越える暴風にもびくりともしない、巨大な建造物。 強化コンクリート、そしてカーボンナノチューブワイヤーで補強されたセラミック装甲板で覆われた、巨大な”匣“。
 その匣の最奥部、一辺50m四方の巨大な格納庫。
その格納庫の中で、彼は静かに息を吐いた。
 見上げるその先、そこに在ったのは巨大な人型兵器。
 黄金と純白の装甲。まるで貴婦人の肌のように滑らかな曲線と、鋭い戦闘用の剣のような鋭角さが折り重なった、人の形をした戦闘兵器。
 その姿はまるで、太古の神像如くオーラを解き放っている。
 男は、“神像”の足元に歩み寄り、そっと手で触れる。
これが自分の新しい力――。
之をもってして、新たな戦いに身を投ずれば、自分は生きる目的を見出だせるのだろうか。
男は胸に手を当て、自分の心臓の音を聞く。
とくり、とくりと、確実に刻む心音。
それはかつて、何も持たずにあらゆる戦場を行き巡ってきた男にとって唯一の所有物。自分が生きている証明。
 男もかつては、隊を引き連れ戦った兵士だった。
 戦争という巨大な不条理に身を任せながら、幾つもの困難を仲間と切り抜けた、屈強な戦士。
 しかしそれは既に過去の事。
 仲間を死なせた。
 自分は仲間を救えなかった。
戦友は命を失い、自分は心を失った。
 今自分が刻む心音は、戦友の心臓。散っていった者たちが刻むべき音に他ならない。
 ――明日にはこれに乗って飛ばなければならない。それなのに……
「少佐」
突然、鈴の音のような透き通った声が、彼の心をノックした。
彼は振り返り、そこに立っていた少女を見つめる。
 少女は長い銀髪を細くて白い指でかきあげ、彼に問う。
「お休みになられないのですか?」
 少女の問いに男は――
「不安なんだ」
 突然男の口から出た、あまりに意外な言葉。
 男の名はグラム=ミラーズ。職業は軍人。階級は少佐。
 大戦を生き抜いた猛者であり、彼の活躍はもはや伝説となり始めている。
 単機で機甲中隊を撃破すること数知れず。彼の率いる隊に至っては、単独で敵師団を突破することさえあった。
 いつしか付いた二つ名が“ヘルファイヤー・グラム”。
 それ程の彼が、不安を吐露する。
「不安なんだ。私はまた仲間を死なせてしまうのではないかって」
救いたかった命。
救えなかった命。
「……ふふ」
突然、くすりと笑う彼女。予想外の反応に、思わず面食らう。
「エステル……?」
“エステル”と言う名のその少女は、グラムに言う。
「恐いのですか?」
グラムは答える。
「恐れを感じた事は無い。だがその分だけ、私は自分の存在を真に感じた事も無い。いつか私を知る者が誰ひとり居なくなったら、私は一体どうやって……」
突然、エステルはグラムの胸に手を置く。
「ならば護って下さい。貴方を知る人々を。貴方の手で。この鼓動の続く限り」
 そう言って微笑むエステルを、グラムは見つめ続ける。


 翌日25日1700時、コードネーム“D”と呼ばれる一機の人型兵器が火星の空に飛び立った。
 その六分後の1706時、“D”が火星軌道上に到達。
 1707時、第三艦隊が離脱を開始。同時、“D”が敵艦隊中央へ突入。
 1715時、“D”が敵艦隊中央で重力波兵器を使用。同時刻、敵艦隊壊滅。



***************



かつて戦争があった。
 いや、争いは幾度となく繰り返されてきた。
 西暦2080年、世界各地で発生した局地的戦闘は、やがて第四次世界大戦へと発展し、その戦火は地球圏全域から火星圏にまで拡大。
 特に、主戦場となった地球圏では、人命と資源をすり潰す全面的な物量戦が展開され、それによって発生する大量のインフレーションは国家の存続を不可能な物とし、崩壊した国家の残滓と企業が資源と利権を奪い合う経済戦争へと成り果てていった。    

 西暦2184年、誰が、何の為にかは分らない。突如、全戦線に謎の無人人型機動兵器群が出現し、全戦線を瞬く間に制圧。
 同年9月、約100年続いた大戦は終わりを見せ、それと共に機動兵器群も消滅。人類は、世界政府“統合体”の樹立を宣言。
 西暦2186年3月25日、約100年間続いた第四次世界大戦を制圧し、世界に終戦を齎した謎の機動兵器群、通称“ヴァリアンタス”。その、姿を消した筈のヴァリアンタスが、地球・火星間に出現。地球に向け再び侵攻を開始。後に言う“セカンドムーブ”が発生する。
 その事態に対し、統合体直下の特務機関サンヘドリンは、対ヴァリアンタス軍を組織し、それに対抗。最新鋭の機動兵器“ディカイオス・エイレーネ”を、戦線に投入。セカンドムーブを鎮圧する。
 以来、堰を切ったように地球圏へヴァリアントが飛来。統合体政府は非常事態宣言を発令。対ヴァリアンタス戦争の開始を宣言する。

 そして西暦2188年――