二者択一
「・・・」
外人さんが手に持っているもの。一つは違法ドラッグ;もう一つは銃。
「You can choose the way you'll go. One is to be a seller; the other a killer」
「売り子になるか、殺し屋になるか、か」
私は悪の道へと着実に進んでいる。売人と殺人者、どちらの方を選ぶか。
「I wanna choose to be a seller」
「Okay, take this」
彼は麻薬を手渡した。
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少女売人はとかく顧客を集めやすい。いくら悪い物をほしがっていても、それを893関係者や不法滞在の外人さんからは買いたくないと言うわけだ。少女からなら気軽に買えると言うこと。
もちろん麻薬なんて手を出すというのは、いずれお金をすってしまうから、凶暴な殺人鬼になったり、自殺してしまうこともありうる。だが、殺人鬼がくるという場合、私は素直に身を引く。後ろの殺し屋が始末するわけだ。
「今月は六人」
殺し屋がつぶやく。発狂して人格を失ってしまった廃人が六人でてしまったそうだ。
「そろそろショバを代えねえとな」
「はい」
私は素直に従う。そうしていれば儲けの四割を手に入れられるのだから。
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「おまえ、いつになったらこの業界を出るんだよ」
「え」
「普通、こんな業界はな、いつかぬけるんだよ。お前も30すぎれば徐々に体がみすぼらしく見えてくるし、お前等売り子は足洗って俗に戻るんだよ」
「戻ってどうするんですか」
「男作って結婚して、パートで働く」
「あなた方はどうするんですか」
「殺し屋は足洗うわけには行かねえだろうが。馬鹿なこと聞くな」
あのときの選択肢によって、未来が変わるわけか。
「ただ」
殺し屋の男性はさらに続ける。
「殺し屋になろうと考える奴らって言うのは、へんてこりんなことがあってねじが抜けてるか、それか一攫千金をねらう奴らかだということだ。俺は後ろ側。だからお前も結婚するなら平凡な奴にしておくこった」
「素性がわからない人と結婚する金持ちはいませんよ」
「わかんねえなあ」
その言葉がわからなかった。
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「おかえりなさい」
私はエプロンを掛けている。普通に足を洗って、主婦になっている。
「俺、会社を辞める」
「どうして」
「正直、もう会社にはいられない」
夫がストレスをため込んでいることもわかっていたが、もうすぐ昇進するのになあ、とさりげなく反対した。
しかし、その晩、夫が風呂に入っているときに、どこかから電話がかかってきた。
「脱サラさせてやれ」
「あなたは」
私が売り子をやっていたときの殺し屋の声だった。
「言っただろう?」
そのとき、私はしかしなんのことだか忘れていた。
「昇進したら金持ちになるだろうが」
どうも、やっぱり裏にいると普通の生活にはいられないようだ。まいった。今年は凶作の年なのに。それも、この先4、5年は続くのに・・・。