Gothic Clover #02
1
布団から出る。
歯を磨く。
顔を洗う。
寝癖を直す。
朝ご飯を作る。
弁当を作る。
朝ご飯を食べる。
着替える。
家を出る。
鍵を閉める。
通学途中で掻太と会う。
ここまではいつも通り。
でも、それは所詮ここまででしかなかった。その後にイレギュラー発生。
「おはよう……」
背後に人飼がいた。
正直、びくった。
本当にコイツ、気配がねぇ。忍者かオマエは。
「今日は登校時間をアナタ達に合わせてみました」
「……」
「『あら、偶然ね。』とでも言って、誤魔化すコトも可能」
……いや、真実を言った後に嘘をつくな。
というか、何故ボク達の登校時間を知っているんだ。
「俺が教えた」
掻太、余計なコトを。
だいたいボクは、まだ友好度の低い人間との登校をヨシとしないのだ。まぁ、それはただ、ボクが初対面の人間が嫌いなだけなのだが。
「アナタ達、家出るの結構遅いのね」
……遅い?
ちなみにただいまの時刻、7時50分。学校へは10分もあれば辿り着ける。この時間よりも早いと言うのだから、どう考えても今の人飼のセリフには「それはオマエが異常に早いだけダ!」と、ツッコミが入ってもいいハズである。入れるつもりは無いケド。
ボク達は学校に向かって歩き始めた。
「今日の朝、ニュース見た?」
人飼から話題をふってくるとは珍しい。
そういえば今朝はテレビを見なかった。
「あー、あの事件っしょ?」
掻太は知っているらしい。
「捩斬クンは?」
ここでボクが「ああ、もちろん知ってルヨ。あの首無し死体のヤツダロ?」と言って知ったかぶるコトは可能だが、そこで人飼に「何言ってるの?このウジムシ。そんな事件、今朝は無いわ。知ったかぶるならもう少しマシな嘘つきなさいよ、この豚野郎」と言われたら恥だ。(実は『豚野郎』と言われるのに興味があったりするのは絶対に内緒だ。)
ココはとりあえず、正直に答えるコトにした。
「ゴメン、今朝はテレビ見てナイ。何があったんダ?」
「ほら、死体が一部を料理されている状態で見つかるヤツ。4体目が出たらしいんだよ」
ああ、あれか。
掻太が言っている事件は、2週間ぐらい前からテレビで報道されている内容で、見つかった死体の一部が料理されていて、死体の傍らに置いてあるらしい。
1番最初はレバーでフォアグラ。
2体目は腿肉でソテー。
3体目はバラ肉でステーキ。
そして、今回の4体目は肉をミンチにして腸の中に詰めたソーセージだったらしい。しかも、どの料理にも一口か二口、食べた後があるとか。そんなにおいしいのだろうか。
「気色悪いよなぁ」
掻太はいつものように呟いた。
全く身勝手この上ない話である。
人間は人間を食べてはならない。
何故?
別に食べてもいいではないかと自分は思う。
何の問題がある?
カニバリズム。
でも確かに食人という行為は昔から存在していた。
今更何を騒ぎ立てる?
そういえば、先月の眼球事件。
瀬水傍嶺もまた、人間を食べていた。(眼球のみだが)
もっとも、今は「行方不明」だけど。
なんだ?
最近はカニバリズムブームなのか?
下らない。下らない。下らない。
笑えねぇ。
つまらねぇ。
くたばれ。
「で、その事件が何だって言うんダイ?」
ボクは人飼に聞いた。まぁ、だいたい予想はつくケド。
「もちろん、現場を見て周るのよ。」
人飼はその黒い目を輝かせながら言った。
やっぱり。
テレビで、現場は神奈川の北部に集中していると報道された時、人飼なら「見て周ろう」と言うコトは予想していた。
そして、予想的中。
「ね、いいでしょ?今日は午前授業だし」
確かに、今日は土曜日。
都合はあっている。
天気もいいし、屍体を見るのも悪くない。
「オッケ。そうしヨウ」
ボクは平然と応えた。当たり前のように応えた。
++++++++++
「おはよー」
「ン? ああ、おはヨウ」
クラスの連中と適当に挨拶を交わす。
2ヶ月経って、クラスの方も落ち着いてきた。
「席着け〜」
いつもの調子で担任の教師が入って来る。
ボクの無意味な一日が始まる。
++++++++++
大丈夫。
ボクが人生の中で見てきた家族の中に、
「サイコロが三つある場合、それぞれの目が出る確率は216通りなんだよ」
「わーぁ、パパってすご〜い」
だなんて会話している家族はいない。
だから、確率の計算なんて、出来なくてもボクは別に困らない。
そう思いながら、ボクは自分の小テストを見た。
20点中、3点。
……中間で頑張ればいい。もし中間が悪くてもボクの責任では無い。悪いのはボクではなくてボクの頭だ。
……受験落ちたドコロか公立の学校でこんな点数取っていると思うと本当にボクの頭は機能しているのか不安になる。
いや、機能しているワケが無い。
どうせボクは人形みたいなものだ。
脳なんて機能していない。
心すら無い。
今までそうだった。これからもこの方針を変えるつもりは無い。
構わない。
……。
とりあえず、家に帰ったら、復習ぐらいしておこう。
そう言っといてしたためしは無いケド。
「らら〜い元気ィ? 何点だった〜?」
掻太がそう言いながらボクのアホ毛を掴んだ。
何をするんだコイツは!
このアホ毛は結構気に入っているんだぞ!!
お風呂に入っても直らない天然純度100%のアホ毛なんだぞ!!!
もしオマエのせいで取れたらどうする!!!!
つーかそろそろその手を離せ!!!!!
「3点かよ。まぁ、元気だせ。世の中には引き算が出来ない高校生もいるって」
ひょっとしてそれはギャグで言っているのか?
「だから落ち込むな」
「そりゃ、オマエは落ち込んでないかもしれないケドサ……」
ちなみに掻太の点数は満点。
コイツ、実は勉強はできる方なのである。
中間も期末もコイツは95点未満の点数を取ったことが無い。
「大丈夫だよ。てめぇって、昔から勉強はできないくせに変なところで頭いいから。そのおかげで今まで俺達、やっていけただろ?これから先も大丈夫だって。いや、頭がいいっていうよりも……これは狡猾といったほうがいいかな」
「……随分なコトを言ってくれるじゃないカ、でも、もちろんそれだけじゃ社会でやっていけないダロ」
「あー、でも、俺がこうやって生きているのはお前のおかげだと言えるぜ」
「いきなり何言ってんだお前」
「いや、さっきテスト中に寝てたら、いろいろと思い出しちゃって」
「……ああ」
確かに、ボクと掻太は掻太が転校してきて以来、様々な事件を体験しながらもなんとか生き延びてきた。小6の頃の通り魔事件、中2の頃の首切り事件、中3の頃のミイラ事件。
みんな、まだ「ボク達」が「3人」だった頃に解決(というよりも体験)した事件だ。
ボクは掻太のおかげで生きていると言えるし、掻太もボクのおかげで生きているとも言える。
ただ一人を除いて、彼は……
「捩斬?」
我に帰った。
「点数が低かったこと、そんなに気にしてるのか?」
作品名:Gothic Clover #02 作家名:きせる