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ながくてとおい平行線

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彼は、今日も私を殺そうとした。

 いらついた表情をした彼は、毎日私に危害を加える。
 原型がなくなるまで殴られ蹴られたり、頭を鈍器で殴られたり、ナイフで刺されたり切り裂かれたり、高層ビルの屋上から突き落とされたり、拘束されて電車の線路に置き去りにされたり。
 毎日毎日私は殺された。
 しかし私は化け物で、不死身だった。
 殺しても殺しても生き返る私を見て、彼は毎日膝をついて泣くのだ。

「……ぅ、が」

 今日は、ぎりぎりと首を絞められる。
 彼は相変わらず苛々していて、爪が食い込んで首の皮膚を引き裂いた。
 酸素を求める私の身体がびくりと大きく痙攣して、視界が暗転。死んだ。
 しかし、瞬きでもするようにやすやすと私の体は生き返る。それを見て、彼は舌打ちをした。

「げふ……けふ」
「畜生。また死ななかったのかよ」
「ごめんなさい」
「謝ってんじゃねえよ、ムカつくな」

 がしがしと頭を掻く彼を申し訳なさげに見つめていたら、視界がぶれた。
 頬に衝撃。平手で打たれた。床に倒れこむ。

「早く死ねよ、クソ野郎」
「それは、多分無理、です」
「だろうな。一通りの殺し方を試してみたけど死ななかったもんなあお前」
「……はい」

 見上げるのが辛くて、床に視線を縫い付けていたら、身体が軽く浮いた。
 腹部に走る重い衝撃、込み上げる吐き気。下から蹴り上げられた。思わず吐いてしまう。

「何泣きそうな顔してんだクソ野郎、泣きてえのはこっちだよ」
「げ……っふ」

 びしゃびしゃと吐瀉物が床を叩く音が耳に届くのと同時、私の身体が別の体温に包まれた。
 背中が熱い。彼の顔が、埋まっていた。

「ふざけんなよ、お前、俺をひとりにする気だろ」

 背中が濡れる感触。
 彼が涙を流していた。毎日私を殺した後、彼はこうやって泣く。

「俺が死んだあと、お前はどうせ、ずっとひとりで生きるんだろ……
 ふざけんなよ、ふざけんな、俺と一緒に、」

 彼が流す涙と、漏らす嗚咽。
 それを私の感覚器官が捉えることが、どんな殺害方法より苦しくて辛くて痛くてたまらなかった。
 振り返って彼の頭を抱き締めて、ごめんなさいと謝る。すると謝るなクソ野郎と罵られて殴られた。