やさしいひと
ふと窓の外を見るとスズメがいた。誰もいないグラウンドの端の花壇の上。なんの花が咲いているわけでもなく、環境に良さそうだからと、誰かが植えた低い常緑樹の根元の陰の中。せっせと地面をつつきながら餌を探しているらしい。特に珍しい風景ではない。
「藤戸さーん?」
視界の中に入ってくる手があった。その接続されているだろう方へ顔を向けると、クラスメートの一人、鈴谷がいた。
「何ボーっと外見てるの?」
「スズメ」
鈴谷は困ったように笑った。それから窓の外を見た。
「花壇のとこの子?」
「そう」
「藤戸は優しいね」
「そう?」
「動物見て飽きない人は心の優しい人」
「そう……」
鈴谷は良く分からないことを言う。でも、その言葉からは、なんとなく優しさが伝わってくる。
「窓開けたら、飛んでっちゃうんだろーなー」
あけていい? 目で鈴谷は聞いてきた。小さく頷くと、やっぱり苦笑する。ゆっくりと窓枠に触れて、ゆっくりと窓を開ける。締め切られていた教室に、微かなグラウンドの匂いが入り込む。代わりに中の騒音が外へと逃げていく。とても世界が静かになったように感じられた。
「じゃぁね」
案の定飛んでいったスズメに向かって、鈴谷は手を振った。
鈴谷のほうが、ずっとずっと優しい人だと思った。
fin.
『壁一枚向こうの息遣いにも気づかずに』 by UNDER the small SKY(http://lostdrop.fool.jp/sky/)