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フレンドボーイ42
フレンドボーイ42
novelistID. 608
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地下牢のツインテール・メイド

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「おい」
 呼びかけられて少女は目を開ける。
 「飯だ」
 少年はその少女に、セットを持ってくる。
 「一時間したら戻ってくるから、それまでに食っておけよ」
 そういって、その少年リベリャスはその場を立ち去る。少女は鎖につながれた手を動かし、それを食べる。
 食べ終わる頃、少年が戻ってくる。いつもの光景だ。
 「オビディエント」
 その少女の名前を呼ぶ。彼女は何にも反応しない。
 「オビディエント!」
 大きく呼ばれてやっと気づいたのか、少女はおずおずと動く。
 「よし」
 彼は食器類を運んでどこかへと消え去る。

 #

 地下牢につながれるような生活が始まって早三年がすぎていた。最初にここにつれてこられたのは彼女が一四の時であるから、今はもう一七という、世間で言えば箸が転がるのに笑い、花も恥じらう頃になってきていて、そのほのかにかおる清廉さが、彼女のその愛らしさに花を添える。
 だが、この地下牢に入ってから、一度も外の空気に触れることはない。時々ここの館の主人が連れ出すのは自分の居間。彼女を眺めてニタニタしながら、お茶くみなどを命じる。また、主人はオビディエントの風呂の様子なども眺めている。そして、「来年は・・・」と、性的欲求を隠さない様子で言う。
 そういうとき以外は彼女に逃げられないように地下牢につないでおく。食事を運ぶのは先ほどの執事の少年リベリャス。年はオビディエントより一つ年上であった。
 地下牢で、ツインテールの少女メイドがいるという光景にも、すんなりなれてしまった彼は、もはや主人には何の疑いも抱いていなかった。否、正しくは、そういうふりをしていた、装っていたということが正しい。思春期の彼にとって、その愛らしいメイドの非常なる牢獄の光景は、とても動悸がするものになりかけていた。

 #

 「オビディエント」
 揺さぶられて彼女は目覚める。
 「・・・先ほど、お風呂には入りましたよ?」
 城野か戯画はずれているのをみて、彼女は素直な疑問をていする。正確に言えば、そういう状況に陥ったメイドの立場として、素直な疑問をていする。
 「アホかおまえは」
 「・・・?」
 きょとんとしている彼女にあきれ顔を見せながら、彼女のその表情に一方では惹かれていた。
 「ここを出るぞ」
 「なにを言っているのですか」
 「なにを言っているのですか、じゃねえよ」
 リベリャスはオビディエントを抱えあげて言う。
 「ここにいればおまえは外の楽しみもしれねえし、なによりおまえのその容姿が失われる頃、おまえが殺されるんだぞ」
 「そうなれば殺人罪です。ご主人様はそのようなことをするはずがありません」
 「おまえなあ、・・・失踪の条件を知らないのか」
 「どういうことです?」
 「失踪して七年たてばそいつは死んだことになるんだよ。死者を殺しても罪にはならねえんだよ」
 「しかし」
 「しかしもかかしもねえよ。もうすでに三年目。後四年たてばおまえは法律上死んだことになるんだよ」
 「・・・」
 彼女がふるふるとふるえはじめる。唇を結んで。リベリャスはさらに続けて言う。
 「あのバカ主人はもともと清廉な容姿のおまえを捕まえてきて、それを三年かけて健康を保ち、そして性的玩具にしようとしているんだよ。おまえはそうやって死ぬのがいいのか?おまえを拉致してきたときの主人の顔も忘れたか」
 「・・・」 
 彼は彼女を抱えあげた。もとよりオビディエントは歩く力を失いつつある。
 「はなしてください」
 そのツインテールの少女は、小さく抵抗した。
 「なにをバカなことを」
 「バカではありません」
 「じゃあなぜ」
 「もう、いやなんです」
 彼女はすごく小さくそれをつぶやく。
 「外が、怖いんです。なにがこの先待ち受けているかわからない。主人は確かに私の心ではなく、私の容姿を愛しているのかもしれません。しかし、ここにいれば少なくとも二十歳までの人生は保証されますし、その間恐ろしい物事にふれることもありません。ここほど安全な場所はないんです」
 「・・・」
 リベリャスは言葉を失った。すでにここまで思い詰めるようになっていたとは。もう、すでに、身体も頭脳も感情の一切も支配されてしまっていた。
 「私を、放っておいてください・・・」
 悲しい顔をして、彼女は切に請う。
 「・・・」

 #

 翌日もそのようなことがあっても、また食事を運ぶ。なにも考えないことにした。そうだ、彼女が正常であるはずもない。ここにいて、もう逆らう力を失っている。苦しさに耐えるための適応規制が働いていた。ということがわかった以上、彼女は諦める必要がある。しかし、三年思い続けた少女にはどうしても未練が残る。
 言ってみると彼女はそこにいる。
 「食事だ」
 運んだが、いっこうに手をつけようとしない。
 「おい」
 揺さぶりかけて、そして気づく。
 「泣いてる・・・のか?」
 「・・・放って、おいて・・・くださいって言ったじゃないですか」
 彼女のかすれ出るような声が、その心情を表していた。
 「あんなこと言わないでほしかったんですよ、リベリャスさん。私は、もう自分を殺そうとしていたのに・・・失敗してしまったんです。あなたのせいで。もう外に出たいという気持ちも・・・あなたと結ばれたいという気持ちもすべて捨てて今日まで生きてきたのに・・・」
 「・・・」
 この少女の声。長く訊いていればまず耳から脳が狂わされそうな、そんな悲痛の声。長く・・・聞いていたくなかった。
 「!」
 彼女の口をふさぐ。少なくともキスをしていればなにもいえなくなる。やがてはなすと、口を彼女が開いた。
 「リベリャスさん、私を、見捨てないでくれますか?今日、・・・私を連れだしてくれませんか?」
 リベリャスは、その彼女をみていった。
 「ああ。少し待ってな。すぐ、連れ出してやるよ。愛しきフェアリーよ」