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夜想曲

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「そう見えます?」

ふざけて笑って見せても、ムダ。
内に潜む闇さえ見すかす深い色とかち合って。
吸い込まれそうになった。

隣にある死から目を背け続けていても、いつだって惹かれていた。
全てを失うことの方が、何かを得ようとするよりずっと幸せに思えて。

「生きることを望まない目をしている。
長く生きた者なら分かるが、まだ、お前は若いのに…」

「くり返す日常がキライだからです。
幸せもなく、ただ死ねないから生きるためだけに働いて。
そんな日常を、誰が望むでしょう?」

死にたいか、と問われてもはっきりと返せなかったのはそのせい。
生きたくないけれど、死ぬことは怖い。
でも、生きることに希望もない。
くり返しの日常にポツンと立っているだけで。

「私は今の日常がキライです」

ゆらりと揺らぐ漆黒。
頬をたどる指先が微かに震えて。

「お前が望むなら、死を与えよう。
生きることが苦痛なら、生き抜けとは言わない」
「…貴方は優しい方ですね」

こんな私に優しくしても、大した見返りなど期待できないでしょうに。

「私には貴方にリスクを負わせても、血をあげることしかできません。
それでも貴方は私に優しくしてくださるのですね」

それだけでもう充分。
自分で望んだ相手に望みを理解してもらえただけでなく、最期にこれほど温かで刹那的な愛情を受けられるなら。
貴方の側にいたいなんて、大それた事は望まない。
貴方が私のことを欠片でも覚えていてくださるのなら…。

「お前の名は?」
「セリーズと申します」

広い胸にそっと顔を埋めれば、温かな手が背中を支えてくれる。

「俺は、ジェイドだ」

低く囁かれた声が耳の奥にいつまでもわだかまって。
その形に唇を動かしても、声にはしない。
貴方が、そして私も、辛くなるだけなら。

私は今が一番幸せ。
もう、思い残すことなどないくらい。
貴方に後で辛い思いをさせても、私は今、貴方の手にかけられることを望むワガママな女。
それなのに、最期まで貴方は優しい。

ベットへ横たえられ、唇が深く結び合わされて。
遠くなる意識の中に沈んだ。



俺の望んだものはいつも手に入らない。
指のすき間をするりと零れ落ちていくようにして、消えていってしまう。

今閉じられ、もう開くことのない青灰色の瞳。
悲しみに濡れたその瞳が目に焼き付いている。
どんなに表情を取り繕おうとも、決して笑わぬその瞳を、俺は幸せに染められただろうか。
最期くらい、顔を縁取っている美しい黄金色と同じくらい輝かせてやれたのだろうか。

死ぬくらいなら、側にいて欲しかったなどと今さら言っても仕方がない。
お前が望まぬ生を俺が望むからと続けさせることなど出来なかった。

俺はお前がウワベだけでさえ笑わなくなるのが怖かっただけだ。
恐れたから、死を与えてやることしかできなかった。

決してお前の言うように優しい男ではない。
高邁(こうまい)なのではなく、高慢なだけなんだよ。
作品名:夜想曲 作家名:狭霧セイ