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水曜日の子供

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 本当に馬鹿だわ。考えれば考えるほど、自分が嫌になる。間違っているのは父ではない。わたしだ。蓮くんが滑り台から落ちたのはわたしの責任だった。わたしがくだらない悪戯をしたから。
 金属音がして、我に返った。夏目さんがブランコの鎖を握っていた。ふだんどおりのやさしい笑顔が、わたしを見下ろしていた。
「蓮くんは?」
「帰ってきてるよ。きみのパパが面倒を見てくれてる」
「わたし……」
「蓮は自分の不注意で落ちたといってる。ぼくはあの子の話を信じるよ」
 子供だと思っていた蓮くんが庇ってくれたのだと知り、わたしは羞恥に唇を噛んだ。けっきょく、一番子供なのはわたしだった。
「ぼくらはもうここにはこないよ」
 わたしのためにブランコをゆるやかに動かしながら、夏目さんが静かにいう。
「きみのお父さんとも会わないから」
「……わたしのせい?」
「ちがうよ。絶対にそんなことはない」
 夏目さんはブランコから手を離し、わたしの目の前にしゃがみこんだ。まっすぐにわたしを見つめていった。
「最初から間違っていたんだ。気づくのが遅くて、きみや蓮を傷つけてしまった。悪かったよ。ゆるしてくれ」
「……ゆるさない」
「蘭子ちゃん」
「ひどいわ。パパも夏目さんも蓮くんも、わたしのことを責めないんだもの」
 泣きじゃくるわたしの頭を、夏目さんはずっと撫でてくれた。

「空気が悪い」
 車から降りたとたん、わたしは顔をしかめた。
「最低のところね。よくこんなところに住めるもんだわ」
 わたしの帽子の乱れをなおして、父が苦笑いする。
「本当にいいの、蘭子ちゃん」
「何度も聞かないでよ。嬉しいくせに。顔が弛んでるわよ」
 父が恥ずかしそうにはにかむ。わたしの口からいうのもなんだが、かわいらしい表情だった。わたしは、夏目さんに父を取られることに恐怖と嫉妬をおぼえていたのかもしれない。
 門のブザーを押すよりも先にドアが開いて、夏目さんが出てきた。足に包帯を巻いた蓮くんを腕に抱いている。蓮くんは憮然とした顔をしていて、わたしはつい噴き出してしまった。
「いらっしゃい、蘭子ちゃん。きてくれて嬉しいよ」
 夏目さんがわたしの帽子の頭に手を置こうとして、慌てて引っ込める。長身の夏目さんを見上げて、いってやった。
「やっぱり、都会は性にあわないわ」
「蘭子ちゃん……」
 父の言葉を遮り、つづけた。
「来週からは、またうちにきてもらいますからね」


おわり。
作品名:水曜日の子供 作家名:新尾林月