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道のり

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無人駅の誰もいないプラットホーム。
僕の旅はそこからはじまった。
色も何もないそこで僕は何をすればいいかもわからず、ただたたずんでいた。
僕は不安で泣きだしそうになる。
そんな僕を抱き上げてくれた人がいた。
背の高い男性と女性。
二人ともやわらかい笑顔で僕を包んでくれた。
そのおかげで不安はどっかにいってしまった。
でも僕は結局泣いてしまった。
……あの時は泣いちゃったけど……。
凄くうれしいから泣いちゃったんだよ?
ね、お母さん、お父さん。

お母さんとお父さんと手を繋いで一緒に電車に乗る。
最初は僕たち三人しかいなかったけど、次の駅に停まると次第に人が増えてきた。
乗ってきた人たちは僕たちと一緒でみんな家族連れだった。
知らない人がいっぱいで恥ずかしかったけど、ちょっと嬉しくてどきどきした。
根拠はないけど、何か楽しいことが待ってる。
そんな気がしたんだ。
ふと、視線を感じる。
そこを見ると僕と同い年くらいの女の子が僕を見つめていた。
目があった僕たちは無意識のうちにお互いの手を握って走り出していた。
この時は気付かなかったけど……。
僕は色んな人に囲まれながら生きていたんだ。

何回か駅に停まると、電車の中は人でいっぱいになった。
気づいたら僕の周りにはいろんな人がいた。
男性、女性、年上、年下。
色んな人と知り合った。
僕の人と人を繋ぐ輪はどんどん大きくなって、いつしかこの電車を埋め尽くしてしまうんじゃないかと不安に思った。
電車に乗れなくなった人はどうなるんだろう。
乗れなかった人のことを考えるとすごく悲しくなる。
だから僕は次の駅で降りて、もっと大きい電車に乗り換えた。
その電車には知ってる人もいたけど知らない人のほうが多い。
僕はちょっぴり不安だったけど、これで電車に乗れない人はいないだろうと安心した。
きっと、この時からだろう。
ようやく周りを広く見渡せることができるようになったのは。
自分のことだけじゃなく、人に気遣いをできるようになったのは。
新しい電車に乗って感じた。
僕は今まで自分の見えるところしか見てなかった。

しばらくその大きな電車に乗ってると、車内に流れたアナウンスが次が終点だと告げた。
終点という言葉を聞いた乗客は色んな反応を見せた。
もう終点!? と、驚く人。
これからが勝負だ! と、意気込む人。
ようやく終点か……。 と、溜息をつく人。
降りたらどうしよう……。 と、途方にくれる人。
僕はというと、初めて訪れた終点に何をすればいいかわからず混乱していた。
今までずっと電車に乗っていた僕。
そんな僕から電車がなくなってしまったらどうなるんだろう。
生きていけるのだろうか……。
そんなことを考えているうちに電車が終点に停まる。
扉が開き、人が次々と降りていく。
そんな流れの中、僕は一人動けずにいた。
電車の扉は開いたまま。
僕は、この扉が閉まって、僕だけ何処かに連れて行って欲しいと願った。
しかし、扉は開いたまま。
もちろん電車は動かない。
僕は重い足取りで電車を降りた。

僕はしばらくうつむいたまま周りを見ることができなかった。
電車の来ない駅、終点。
僕はこのままずっとここで死ぬまで生きていくのだろうか。
……そんなの、絶対に嫌だ。
うつむいてると嫌な考えしか浮かばない。
それでも、終点という場所を見るのが恐くて顔をあげれなかった。
……その時……。
そんな情けない僕を優しく見つめる視線を感じた。
懐かしい温もり……。
視線の先は、さっきまで乗っていた電車の運転席からだった。
そこには、しばらく見ないうちに弱々しくなったお母さんとお父さんがいた。
それでも、僕を包んでくれる優しさは昔と変わらない。
そうか……。
そうだったんだ……。
僕をここまで連れてきてくれたんだ……。
僕がここまで来れたのは……。
お母さんとお父さんのお陰だったんだ……。
どんなに僕の周りにできた人と人の輪が大きくなろうとも、それを包んでくれていたのは二人だったんだ……。
たった、二人で……。
気づいたら僕は顔を上げていた。
駅の看板に終点の二文字。
終わったわけじゃない……。
何もここだけが僕の世界じゃない……。
そうでしょ……?
お母さん、お父さん。

有人駅の人だかりの出来たプラットホーム。
僕の旅はそこからはじまった。
両親からもらった大切な切符を駅員さんに渡す。
そして、僕は外へ出て行った。
まだ見ぬ広い、果てしなく広い世界へ――。
作品名:道のり 作家名:永知