世界
まだ幼い僕が最初に覚えた感情だ。
だからこの先、この感情が消えることなどないだろうと決めつけていた。
しかし、それは諦めではない。
僕にとってこの感情が普通であり、全てだった。
それが僕という世界だった――。
周りを見ると笑顔が見える。
泣き顔も見える。
僕はそれらとは違う顔だった。
そんないろいろな表情を見て僕は思った。
あれがみんなの世界なんだ、と。
そしたら急に寂しくなった。
いろいろな世界を持っているみんな。
なのに、みんなは手をつなぎあっている。
僕だけが仲間はずれ。
ねぇ、僕も仲間に入れてよ。
そう言って手を伸ばせばつかんでくれるだろうか。
でも、僕は恐くて……。
ただ恐くて……顔を上げられずにいた。
きっと僕は、自分の世界を守るので精一杯だったんだと思う。
だから自分を傷つけて閉じこもった。
絶望と一緒に。
少し大人になってきて、だんだんと手をつなげるようになってきた。
しかし、それは自分からじゃない。
全部、相手側から手を差し伸べられたことがきっかけだった。
僕は最初に手をつないだ時、恥ずかしさとそれに混じって疑問があった。
なんで僕と手をつなごうと思ったのだろう。
内心そんなことを思いながらも、それでも僕は手をつないだ。
ひとり、ふたりと、僕と手をつないでくれる人は増えていった。
大人になればなるほど、その数は増えていった。
その度に疑問に思った。
でも、その答えはすぐわかった。
きっと、みんなは僕の世界を求めている。
絶望という世界を。
子供の頃に見向きもされなかったのはきっと、みんながこの世界を知らなかったからだと思う。
でも、今は違う。
みんなは大人になってきて、なんらかのきっかけで僕の世界を知った。
だから僕は……僕という世界は理解されたんだ。
僕は答えを見つけて首をかしげた。
これはいいことなのだろうか。
その答えを見つけ出せなかったけど、僕は手をつないだ。
きっと、僕自身は嬉しかったんだと思う。
みんなに求めれて。
理解されて。
今はそれでいいと、漠然と考えていた。
気付いたら僕は年をとって、もう夢を見れなくなっていた。
外を見ながら僕は思う。
なんで僕には絶望しか見えないのだろう。
そんなわかりきった問いを自分に投げかけては、いつも自嘲気味に笑った。
そう、とっくに答えは出していた。
それはあの時の疑問の答えと同じもの。
あの時の自分に戻りたくても戻れないのだから仕方ない。
僕は外の世界を見続けた。
それが僕にとっての普通であり、全てだったから。
いつか全ての世界が手でつながることがあるのだろうか。
それはきっと、僕が望んでいる世界だと思う。
僕のように、深いけどせまい世界ではなく。
自分の世界に閉じこもるわけでもなく。
他の世界を自分の世界にするわけでもない。
みんなで手をつなぎあって世界を広げていってほしい。
それだけが僕の夢だ――。
そして、僕は夢から覚めた。
周囲は相変わらず、世界がぶつかりあっていた。