飴色の日常
酔っぱらいのお使い
うう……、頭が痛い。
昨日は先輩…というか、俺が一年ダブってしまったがために先輩になってしまった元同級生たちと1つの部屋に集まって飲み会をした。
1人用の部屋に最大何人いたんだろうか。割とぎゅうぎゅう詰めだった気がする。最初が5人で、そのうち10人ぐらいになって増えたり減ったりしてる間に酔いが回って人数なんてどうでもよくなってきたから、結局誰がいたのか余り覚えていない。
週末にこっそりと行われる飲み会は、割と定期的に開かれている。主に1人部屋を持てる高等部の2~3年生の所で行われることが多い。本当は、テレビが置いてある多目的部屋でも借りて盛大に行いたいものではあるけれど、内容的に無理だから――ああ、なんだか気持ちが悪くなってきた。
なんとか自室のある3階から自販機や食料のある1階まで下りてきたはいいものの、廊下の隅に潜んだまま動けないのは、常駐の先生方や寮の職員が通るからだ。飲み会を行っていることは全く知らないわけではないだろうけれど、こんな明らかに事情聴取してくださいという状態で躍り出るわけにはいかない。
飲み会をしていたということがバレでもしたら、面倒なことになる。俺がバラしたってしれたら、顰蹙買うだろうしなぁ……。
そんな感じで廊下で様子を窺っていると、たまたま目の前をぴよぴよと話しながら通りかかる中等部の生徒の姿が見えた。
「これこれ、そこの1年生たち……」
こそこそ声を掛けると、連れだって歩いていた2人が立ち止まる。中等部1年生にしては背の高い方が二ノ宮くんで、なんとなくほわんとしている方が西之入(にしのい)くんだ。同じ小学校からやってきた上に部屋も同室らしく、大抵一緒に行動している。
「あれ? 湯浅先輩」
「どうしたんですかー?」
俺を見つけると近づいてきて、元気良くわあわあ言い出したので、眉を寄せてポケットを探った。……頭が痛い。
「先輩のために、売店でサンドイッチと炭酸飲料を買ってきておくれ」
「うわ、酒臭い」
千円札を取り出して手渡そうとすると、受け取りかけた二ノ宮くんが、一瞬手を引っ込めた。
……ひどいぞ、お前。
俺もめげずに、引っ込みかけた手首を捕まえて、千円札を握らせる。
「昨日飲み会だったんですか?」
「内緒にしろよ」
頷いた拍子に、ガンガンしている頭の中身が余計に揺れたようになって、冷たい壁に凭れかかった。
「でも、その臭いと二日酔いみたいな動きだったら、すぐ先生にバレちゃうと思うんですけど……」
「だからここにコッソリ潜んで、お前らに売店行ってくれって頼んでるんだろ」
「あーそっかぁ。それでこそこそしてたんだ」
「こそこそっていうか、行き倒れてる感じしたけど……」
失礼な、階段の影に隠れて様子を窺っていただけで、俺は行き倒れてないぞ。……と思ったけど、ここはお使いに行ってもらう手前、謙虚にお願いすることにした。
「それでどうかよろしくお願いします」
「はい、いってきます」
礼儀正しい西之入くんは、大きく頷く。でも、もうちょっと声は控えめにお願いしたい。目立つという意味でも、俺の頭痛的な意味でも。
「おつりはお駄賃にしてもいいんですかー?」
のんびりと俺のお金を持ったままの二ノ宮くんが尋ねてきて、思わず溜息を吐く。
お使いといっても、お父さんの煙草を買いに行くわけではないのですよ、君……。
「お前ね、先輩から言われない限りは、耳を揃えて返すのが礼儀だろ」
「……ハイ、すみません」
簡単にしおしおと謝る姿に、なんだか俺の方が悪いことをしたような気分になったので、なんとなく譲歩をする。
「飲み物ぐらいなら奢ってやるよ。余った分で買っていいから、早く行ってこい」
追い払うように手を振ると、途端に嬉しそうな顔になった2人が、子犬が駆けていくように売店へ駆けて行った。