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フレンドボーイ42
フレンドボーイ42
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種族の異ならない二国間

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 「逝こうか」
 「そうだね」
 それだけ交わして僕は彼女と歩く。

 #

 僕の国と彼女の国は同じ民族なのに、井戸の線引きを境目に無駄に抗争をくりひろげてしまった。そこには、・・・どうしても、たとえ地球が二つに裂け、太陽が破裂するようなことがあろうとも・・・そこには対立があった。殺しあいの歴史。それはやはりどうしても、許しがたいはずの歴史だった。それは今となり、戦争が忌むべきものになったこの世紀においても続きながら生きる争いだ。
 僕らの世界、つまり、組み合わさった哲学や倫理と言うものと、彼女たちのそれは、異質すぎた。この世の平安は神によってもたらされるとするものと、天使によってもたらされるとするものだ。前者は、この世をお作りになった神だからこそ、末の世も神が平安をもたらすのだ、という考え方だ。それに対して後者は、この世をお作りになったのは神であるが、実質統治しているのは人間であり、神が思い描く世界の理想像と我らの社会の欲求する理想像は遙かに異なることを神はご存じであり、その隙間を埋められるのは、人間と神の性質を互いに持ち合わせる天使であるというものだ。
 僕は前者のグループにいて、そして戦士たちに交わり戦っていた。ただし同じ民族系統だったこともあり、向こう側の戦士とこちら側の戦士は、顔ではそれとわからない。そこで服を替えたり、暗号を考えたりする事で互いに自らがばれぬように、また相手がわかるように戦っていた。そして、僕は戦士たちの中で、ひときわ優れていると言われていた。この時代において戦争とは互い違いに乱れる戦士たちのもがきあいなどではなく、相手を先に見つけては狙い撃ち、逆に相手には見つからぬように姿を消すという、とても静かなものである。また、先進諸国どもの男女共同参画社会の理想が両国に流れ込みつつあるこの時代、両軍には女兵士もいた。男の兵士は捕虜となると、よほどの美男子でもない限り奴隷働きをさせられる(美男子は向こうの国の貴族どもの女子どもの玩具にさせられる)ように、女の兵士は捕まれば、不美人は家内労働用に売り出され、美女は兵士のストレスのはけ口として、陵辱されるのが常であった。
 僕は、美男子であるとされていたから、きっと捕まればそれこそ不細工な貴族の女に売られるだろうと考えていて(余談であるが、この二国の間の戦争では、お互いあいてはなるべく殺さず捕虜にすることが求められる。殺戮すれば周りの国はうるさいし、信仰上でも殺すことはタブーとされるためだ。よって互いに麻痺させては、敵を引きずるということが行われる。そのため戦場にはトラックなどの武装車が走り回る。もっとも、奴隷になるととんでもなく過酷な労働条件のために衰弱死する人間は多い)、それはどうしても防ぎたいことであった。だから僕は必死こいて相手をねらい打ちし、それを、また敵にはいっさい気づかれずに行ってきた。敵国から「蝙蝠スナイパー」と呼ばれる由縁だ。
 一方彼女は彼女で二丁の銃を携えて、向こうの切り札とかしていて、彼女の姿をみたという解放した捕虜(自国の人間なら解放するのは当たり前の行為である。これは敵も解放を試みてくるので、お互いそれを見張る組織すら作っている)は、彼女を、「とても清廉な容姿をした少女らしい体型をしていて、とてもその能力を携えた悪魔とは思えない」と言うのであった。彼女はこちらから、「咲き誇る茨」と呼ばれた。
 そんな彼女を、僕はどうしても捕虜にしたいと考えていた。でなければ、こちら側の勝利はあり得ないと言うことができたからだ。隊長には、「お前がしとめたとき本当に優れた容姿で、お前の好みであれば、くれてやろう」という旨を承ってはいたが、そんな下心でねらっているのではなかった。どうしても自分が強いことを証明したかった。ただそれだけだった。

 #

 そうして、最初にあったときが、ちょうど一年前。彼女の玉をすんでのところでよけた僕は、彼女に銃口を向ける。隠れる余地のない袋小路にあえて身をつっこんだのは、相手より早く背後に回って行う自信があったからだ。
 「振り向いたり銃を向けたりするなよ。腕を上げて撃つ前に撃ち込んでやるから」
 「・・・一瞬しかそのルックスを眺められないのは最低だなあ・・・あなたがかの有名な蝙蝠さんね」
 「そっちのほうではではそう呼ばれているらしいな。少し話をしようか」
 「この状態で?」
 「自らの安全を考えずに話をしようと言うバカがどこにいるっていうんだい。僕はこの状態で話す」
 「卑怯ね」
 「正々堂々とした戦争なんてどこにあるんだよ。殺しあわないだけましと言うべきだと思うがな」
 「私は・・・残念だけどあなたをとらえるにはその準備をしている。これで勝った気にならないことね」
 「あんたが逃げ出さなきゃ僕は撃つつもりだよ。ただ僕をねらえると高をくくるのはやめておくべきだ。なぜなら」

 僕は後ろにいた連中を見ずにすべて打った。
 「もうバレバレだからだ」

 #

 その時はすぐに彼女は逃げた。まあ、あれだけ隙を与えといて逃げないはずもない。そのことは別に誰にも報告しなかった。僕は彼女を考え続けた。
 なんていうか、かわいすぎた。同じ民族だっただけあって、敵に恋愛することもある。そういうことがあった場合、まあ、こっちの考え方に帰依させるという手もある。しかし彼女がのってくれそうにはなかった。
 まあ、結局彼女とは数度再開した。そのたびに僕も彼女も感情的な理由で言葉遣いが変わっていく。

 「撃ってくれよ」
 僕は敵である彼女にそういう気持ちを吐露していた。
 彼女の手が、震えた。
 「動揺させようとなんかしていない。撃ってくれよ」
 「・・・ふざけたこと、言わないでよ」
 彼女は銃口を向けられずにいる。
 「言ったでしょう?あなたはもし捕まったら私に服従する生活になるのよ?あなたはMなの?ドMなの?わたしをとらえるつもりじゃあなかったの?」
 「・・・もうそれは、諦める」
 「なんでまた・・・」
 「この世界で、君と僕に対等な関係は築き得ない。正直君を奴隷にしても楽しそうな生活であるとは思えない」
 「・・・」
 彼女は銃口を向けて、僕を、狙った。

 #

 「目が覚めた?」
 気がつくと僕は崖の近くにいた。
 「私がここまで連れてきたの。男の人って運ぶには重いんだよ」
 「・・・一体、なぜここに?」
 「一緒になろうよ」
 「へ」
 「対等な関係になろうよ」
 「亡命でもする気?残念ながら僕の国も君の国も亡命者を見つけるのは得意で逃げられるとは思えないな」
 「・・・わたしのこと、どれくらい思える?」
 「・・・君のためなら・・・死んでもいい」
 正直な思いだった。この世には幻滅していた。「神や天使が怒ろうと構うものか」
 「この崖の下は、海。この高度から落ちればまず助からない。・・・」
 「心中しようってこと?」
 彼女はコクンと首を下げる。
 「君は」
 「私もあなたのためなら死ねる。私は…やっぱりあなたと共にいたいもの」
 「そのために君は人生を棒に振る事になるんだよ」
 「いいの」
 彼女はふいにキスをする。そのまま、僕の肩に手をのせる。