紡いだ糸の話。
僕は寄りかかっていた机から身を起こして彼女をみた。
その手元は乱れることもなく止まることも無く軽やかに糸を結び、より、繋げていた。
「ええ、音が聞こえるんです」
音が、と問うと音が。と返って来る。
どこから彼女に聞こえる音が流れているのだろうと周囲を眺めても僕には解らなかった。
「だから、きっと空は明るいのでしょうね」
夢を見る少女のような口調で、彼女は続けた。
そこで僕は、ああ、彼女はここにはいないんだな、と手を伸ばして抱きしめようとしたのだが。
するりと通りぬけて彼女は音も無く消えた。
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