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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝-

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「歴史から消えてしまわないように、わたくし以外の方にも知っていてもらいたいのです。ジャン博士はある使命を帯びて、コールドスリープ装置である赤子と共に眠りに就いていました。その赤子は病気で、当時の医療技術では治すの困難でした。ですから治療薬が開発されるまで、眠りに就くことにしたのですが、いろいろな事情がありまして、ずっと目覚めることなくこの時代まで忘れられてしまいました。それが16年ほど前、古代遺跡を荒らしに来た盗賊によってコールドスリープ装置が発見され、ジャン博士と赤子は目覚めました。目覚めたのはいいのですが、この時代はすでに魔導と科学力が衰退しており、赤子の病気を治す治療薬も存在していませんでした。けれど、運がよかったことに、この時代の人間はその病気の抗体を持っていたのです。そして、赤子の病気を治すことができたのです」
「よかったじゃないか。それでめでたしめでたしか?」
「いいえ、そのあとジャン博士の住んでいた村が戦乱に巻き込まれ、赤子が行方不明になってしまったのです。それからジャン博士は世界中を旅して赤子を捜しました。しかし、何年経っても見つからなかったのです」
「そこで話は終わりじゃないだろうな?」
 ジェスリーはポケットから十字架のペンダントを取り出した。
「つい先日アレンさんから預かったものです。もともとこれはジャン博士が恋人に贈った物なのですが、今はセレン様の物なので、トッシュさんから返していただけないでしょうか?」
「まさか……その赤子って……」

 新生シュラ帝國の玉座へと続く真っ赤な絨毯。
 その道を飾るのは国中から集められた美男子たちだった。
 四つん這いにさせた青年を足置きにして、玉座に座っていたのはこの帝國初の女帝だった。
「退屈だわ」
 ライザは溜め息をついて、思い立ったように立ち上がるといきなり走り出した。
「またライザ様がお逃げになったぞ!」
 近衛兵たちの大声が城内に響き渡った。
 かつてその国は世界から畏れられる軍事国家だった。
 しかし、今は100年未来をいくと云われる魔導科学国家の歩んでいた。
 ?ライオンヘア?と呼ばれていたのも昔のこと、今は?白衣の女帝?と云われている。
 城内に悲鳴があがる。
「大変だ、ライザ様の撃った光線銃を喰らった兵士が猫になっちまったぞ!」
「ぎゃーっ、こっちの兵士は豚だぞ!」
 この国は今日も平和だった。

 花畑の真ん中にある柩にもたれかかり、地面に脚を伸ばして座っている妖女。
 それは硝子の柩に似ていたが、中は培養液で満たされていた。中で静かに眠っているのは――。
「ねえお姉様、明日はどこに出掛けましょうか?」
 風が吹いて花が香り立った。
「うふふ、お姉様ったら研究所にこもってばかりで……これは神様が与えてくれた休日かしら」
 妖女がゆっくり立ち上がると、その姿は老婆へと変貌した。
「わしばかりが歳を取ってしもうて、目覚めたお姉様はわしのことがわかるかの?」
 声まで年老いてしゃがれている。
「そうじゃ、いっしょに海に行こうと約束して、一度も行ったことがなかったの。明日は海にでも行くか」
 不思議そうな顔を老婆はした。その鼻をくすぐった風の匂い。
「潮?」
 海など近くにないのに、どこから香って来たのだろうか?

 太陽が燦然と降り注ぐ煌めく海の上に少年はいた。
 少年は海風に吹かれながら、竹材で作ったいかだに揺られ、どこ行く当てもなく漂流していた。
 海賊帽子に片眼には黒い眼帯。いかだの帆にはらくがきみたいな髑髏マークが描かれていた。
 深く被った帽子から覗く片眼は、遥か彼方を見つめているようで、なにも見つめていないような眼差し。
 少年はあの先になにを見る?
 そして、なにを求め、旅をしているのだろうか?
 その時、少年の腹が奇怪な音を立てて鳴いた。
 ぐぅぅぅぅぅ〜〜〜っ。
「腹減ったぁ〜〜〜」
 今、少年に最悪最強の敵が襲い掛かる!!
 ――空腹。
 もう何日こうやって漂流しているのだろうか?
「マジで死ぬ。そこら中に魚がいるってのに、なんで一匹も釣れねぇんだよ」
 釣り針は垂らしているが、餌はついていなかった。
 腹を押さえながら少年は遠い海を眺めた。
「ん?」
 見る見るうちに少年の瞳が大きくなっていく。
「船だ!」
 狂風が吹いた。
 帆が風を受けて船に向かっていかだが進む。風があっても、この早さは不思議だ。あっという間にいかだは船の横にやってきた。
 船はいかだの何倍もある大きな船で、少年は首を曲げて顔を上げた。
「お〜い、飯ちょっとわけてくんない?」
 その声に反応して甲板から人影が身を乗り出して顔を見せた。その顔は少年を見てあからさまに嫌そうな表情をした。
「君にくれてやる食料はない」
「あ、てめぇなんでこんなとこにいんだよ、海賊やってんの?」
「海賊船ではなく商船だ」
 ルオは溜め息をついた。その横から新たな人影が顔を出した。16、7くらいの娘、ラーレだった。
「そちらの女性はルオの知り合いですか?」
 驚いたルオと少年――ではなく少女アレン。
「俺のこと女だってわかんの?」
「君、女だったのかい?」
 疑いの眼差しでルオはアレンを細い眼で見た。
「悪かったな女で」
「乗れ」
 ルオはロープを下ろした。
「おお、サンキュ!」
 アレンは軽く礼を言ってロープを登った。
 甲板のへりに来ると、ルオが手を伸ばしたので、それにアレンはつかまった。が、お互いの手と手が握り合った瞬間、ルオは心の底から嫌そうな顔をしたのだ。
「やっぱり気持ち悪い」
 そう呟いて手を離した。
 水飛沫を立てて海に落ちたアレン。
「うわぁ、俺泳げねぇんだよ、この野郎落としやがって!」
「朕も泳げぬ」
 慌ててラーレが海面を指差した。
「鮫です!」
「飯だと!」
 アレンは叫んだ。
 サメに向かって泳ぎ出すアレン。
 呆れたようにルオは呟く。
「泳げるじゃないか」
 巨大な口を開けた巨大サメはアレンをひと呑みにしようとする。
 ――どこかで歯車の鳴る音がした。
「飯ぃ〜〜〜っ!」
 サメを放り投げながら自分自身も飛んでいた。
 船の甲板に打ち上げられたサメとアレン。
 全身をびしょびしょにしながら、大の字で空を眺めるアレンの視線が霞む。
「……腹……減った」
 そして、アレンの意識は白い中に落ちていった。
 穏やかな寝息を立てるアレンの表情は、まるでたくさんの料理を目の前にしているように、ニヤニヤと笑っていたのだった。

 第3部 完