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俺×iphone

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俺は疲れてるんだろうか。
それとも夢でも見てるんだろうか。
人に話したら、まず間違いなく精神科を勧められるだろう。

俺の目の前で、携帯が、人になった。

そんな大それたことをしておきながら、そいつがさっきから何をしているかといえば、俺に対する文句をぶーぶーたれているだけだった。

「だーかーらー!お前ぜんぜんわかってないけど!俺は!iphoneなの!もっとアプリとか落とせよ!今俺ん中初期のやつ以外電話帳コピーしか入ってねーじゃねーか。」
「あー電話帳はさすがに無いとこまるからなぁ…」
「それ以外にも無料でおもしろそうなのたくさんあるだろ!セカイカメラでも食べログでも産経新聞でもいいからなんか入れろよ!このままだと俺ipod touchみたいだろ…」

そういって、自称iphoneのそいつは心底悲しそうな顔をした。だが残念ながら俺は最新のテクノロジーにもグルメ情報にもあまり興味は無かったし、新聞も日経派だった。どうやったらこれ以上怒らせずにそのことを伝えられるかと思案していると、そいつは悲しそうな顔のままさらに続けた。

「だいたいさ、ほかの持ち主はiphone持ったら暇があればいじってるのに、お前ときたら二日に一回は家に忘れていくしさ。ネットもパソコンだし。音楽だってあんまりきかねーじゃん。…なら、なんで俺にしたんだよ。」

さっきまでの元気はどこへやら、目に見えて落ち込みだしたそいつをみて、さすがに俺も申し訳ないような気分になる。だけどそいつのそんな態度を見て、ふと、ひらめいた。

「…なんだ、お前さみしいのか?」

思わず口をついたセリフに自分でもぎょっとする。携帯に向かってさみしい、だって?
でもさっきからのそいつの態度はまるで、かまってほしくてたまらない子供のように思えたのだ。
俺の言葉を聴いて一瞬きょとんとしたそいつは、これまたさっきのへこみっぷりはどこへやら。瞬間湯沸かし器のように一気にテンションがあがりはじめた。

「ばっかじゃねーの!誰がさみしいだって!?俺が言いたいのはだな、何でお前みたいなやる気の無いやつが俺を選んだのかわかんねぇってことだよ!」

確かに。俺はそれまでiphoneがほしいと思ったことは一度も無かった。物凄いニュースになっていたから存在は知っていたけど、携帯なんて通話できればいいくらいにしか思っていなかった。
だけど、こないだそれまで使っていたやつをうっかり水没させてしまって、仕方なく電気屋に行ったら―――そこで初めて、iphoneを見た。おそらく店の一番いいポジションであろう棚一面に、整然と並べられた黒い大きな液晶。今まで見てきた携帯とはあまりにも違っていて思わず手に取ると、そこにあったのはボタンひとつのシンプルな外観と、見た目とは裏腹にずしりと手に残る重量感。

ほかの携帯になんか見向きもしなかった。即決だった。

「…自分でも良くわかんないけど、まぁ、一目ぼれかな。」

思わず独り言のようにつぶやくと、そいつの顔はみるみるうちに真っ赤になった。

「そ、そんなこと気軽に言うなよ!お前なんか…お前なんか!安心だフォンでも使ってろ!」

そのセリフに思わず吹き出してしまった。あぁそうだ、こいつの言うとおりだ。俺には過ぎた携帯だけど、こんなにかわいいやつなら、もう少しまじめに使ってみるのも悪くない。



作品名:俺×iphone 作家名:オハル