コーンスープのお返し
肩より少し下まで伸びた、明るい色に染められた髪が哉子の表情を覆い隠している。あゆむは、どうしてかしょっぱいものが喉から込み上げてくるのを感じた。隠れている哉子の顔色くらいは予想がつく。たぶん本気で、真剣にあゆむに謝っているのだろうとも思う。だからあゆむはただ許せばいい。別に気にしてないから、と言って、それから何日間か拗ねたふりをして、哉子がご機嫌取りをしてくる様子を楽しんでもいい。
しかし許す以外の選択肢もあゆむにはない。許してしまえば、こんな小競り合いはすぐに終わってしまって、哉子はきっと、あゆむよりも先に忘れてしまう。あゆむもまた、自分の気持ちと向き合えなくなってしまう。本当はとっくに気付いていて、向き合いたくなくて自分を騙しているだけだとしても。
「哉子」
「うん」
「わたし、は」
(言えるはずなんてない、のに)
「わたし、まだ怒ってるから」
「……うん」
「でも許してあげる。この意味、分かる?」
「えぇと、確か来週、駅前にクレープ屋さんが期間限定で出来るようですが、いかがですか、姫様?」
「うむ、よろしい。わらわをおごる権利をそなたに進呈するぞよ」
「ははー」
いつも通りのやりとりのあと、顔を上げた哉子がにへら、と笑った――正確には、笑おうとして、一瞬言葉に詰まったみたいな顔をして、結局は笑顔になった。あゆむはもう、考えることを止めていた。
作品名:コーンスープのお返し 作家名:しもてぃ