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イミテーション・パラダイス

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0・かの小国参謀の話



長いこの世界の歴史は、女神が世界と人類を造り上げたとされる神話時代から始まり、
いつからかヒトは女神の手を離れ、はじめに集落を築き、つぎに多種多様な文明を、そして国家を打ち立て、
己が利益と感情の赴くままにヒト同士争い、傷つけ合う事を当然としてしまう、現在に至る。

私が生まれ、永久の忠誠を誓った国家もまた、大国の利益と欲望により、存在を脅かされ、
民は怒りと悲しみを抱き、大国に討ち滅ぼされるのを待つのみという、危急存亡の秋を迎えたことがある。

ヒトは何故、他者を虐げ、時に虐げられ、互いを憎むことを止めないのだろうか?
その業に関して、私はある宗教学者に、こう問いを投げ掛けた事がある。
『世界を創造した、偉大なる女神は何故、ヒトが他者を傷つけるように、人間を造り上げたのでしょうか?』

宗教学者は少し考えてから、私にこう答えた。
『創世の神話をご存知ならば、女神とその夫の子供たる我々が、他者に負の感情を抱き、傷つけあう事は当然の性であります。
その性により、悲劇を起こさぬように、女神は後世に自らの過ちを語り継いで下さったのでしょう。』

傷つけあう世の理に関して、私はこの意見におおむね同意だが、それでも宗教学者の申す、教訓に関しての部分には、いささか疑問がある。

だが、その前に、この世界の根底に根付く創世の神話に関して、少しお話をしておこう。

創世の神話とは、遥か昔に我々の世界が始まるきっかけとなった、物語。
我々の民族、いや、我々の世界に生きる全てのヒトが、それを現実に起きた事実として、語り継ぎ、

創世の神でもある女神を、我々の世界では、大いなる母として信仰の対象としている



それはまだ、世界に人間が存在しなかった時代。
女神が楽園を造り上げ、そこで99人の精霊に見守られ、ただただ、安らぎに満ちた世界を作り上げていた。
ある時節、異界と呼ばれる場所から魔神が降り立ち、楽園に破壊と殺戮をもたらした。
女神と精霊たちは共にこれを排除すべく、魔神と長きに渡り戦いを繰り広げ、100の夜を越えた末、魔神を楽園より退けた。
だが、戦いにより楽園は焦土と化し、精霊たちは魔神との戦いの折りに一夜に一つと命を散らし、最後の夜の戦いを生き延びた女神も既に、楽園を再生させるだけの力を残していなかった。

悲しみに暮れる女神の傍らに、いつの間にか一人の男が現れ、女神に共に世界を創り直す提案をした。
絶望に心を沈ませていた女神は、その男が何者かよく考えぬままに、その提案にすがり、何時しか二人は夫婦となった。

そして長い年月ののち、楽園は少しずつその姿を取り戻し、二人は自らの姿に似せた、自分達の子供である、人間という存在を楽園に住まわせていた。
女神は、人間たちと夫を深く愛していたが、
何時からか、時おり彼らを見ては、浮かない顔をするようになっていた。
夫が女神に原因を問うと、女神は、再びおぞましい魔神に、全てを奪われるのが恐ろしいと、泣いたのだった。

その弱々しい女神を見ると、夫は笑いながら、魔神はもう来ることはない、と、答えた。
夫の言葉に、女神は気づいた。
彼こそが、かつて自らの楽園を壊し、自分を見守ってくれていた精霊を殺した、憎むべき魔神なのだと。
愚かな自分は、そうとは気がつかず、夫と崇め、愛を注いでいたのだと。

夫の正体に気づいた途端、二人の子供である人間たちは、二人の溝を象徴するかの様に、互いを罵りあい、石を投げ合うようになった。
罵りあう声は日に日に大きくなり、何時しか毎日の様に、女神の耳にも届く様になっていた。

女神は思い悩んだ。
自分が夫を憎むばかりに、その加護を受けた子供たちにまで悪影響を及ぼす。
だが仇でもある、魔神をこれ以上愛することも出来ず、女神は追い詰められていった。

そしてある晩。
これ以上、魔神と共に世界の創造をすることは出来ないと悟った女神は、
寝台で眠る夫の心臓に、赤い宝石で出来た剣を突き立てた。

夫であった魔神は最期の際に、
お前が私を手にかけた事により、我々の子供は女神が夫への愛を取り戻さない限り、永久に殺しあい、憎み合う事になることだろう。と告げ、
更に世界に、自らと同じ異界の魔神が現れるようにとの呪いをかけた。


その日から、ヒトは殺し合うようになり、女神は心を閉ざし、誰も愛せぬようになったまま、姿を消した。

残された楽園で、ヒトは殺しあいながら、女神が夫であった魔神への愛を取り戻す日を待ち続けている。


創世の神話は、要約するとこのような話だ。

そして、この魔神と女神の齎したものは、今もまだ、我々の世界に根付いている。
終わることがない戦乱。
その陰に存在するのは、世の理から外れた力を持つ、異界の住人『魔神』と呼ばれる存在。
人間は、魔神の力を争いの道具として利用し、
結果、女神の楽園は荒廃の一途をたどっている。
宗教学者は、これを人間たちへの女神の試練だと位置付けているが、
私が思うに、女神は魔神を手にかけた時既に、この楽園も人間も、打ち捨ててしまったのだろう。
女神にとって、憎い魔神と共に造り上げた楽園は、紛い物。
本物の楽園にはなり得ないのだ。
捨てた子供に親が教訓など残すだろうか?
これは女神の憎悪と、穢れと見なされ捨てられた事実を、我々が良いように解釈しただけであろう。
紛い物の楽園にすがり、戻らない母の愛情を求めつつも、世界を腐らせる。それが今の人間である。

我々の母は、子供を見捨て、父は母を奪い、世界に災厄をもたらした。

その一つが、『異界の魔神』の存在。
かつて女神の楽園を滅ぼした魔神と同一視される、かの者達は、
手を触れただけで、命を奪う者、大地を吹き飛ばす者、一騎当千の働きを起こす者、
この楽園に生きるものには到底不可能な力を秘めていた。

当然、『魔神』は、女神を信仰する者に、忌むべき存在とされ、
一方で戦争の道具として懐柔され利用されるのが通例となった。


私の祖国も例に違わず、『魔神』の力を借り、大帝国の侵略を退け、国家の再興を果たした。

後世の信心深き人々は、私の祖国と我が王を差して『禁忌を犯した愚王』と罵る事だろう。

だが、私は『魔神』を国に引き入れた事も、力を利用したことも後悔はしていない。
それは我が王とて同じ事だろう。そう確信している。

我々の戦いに力を貸してくれた『魔神』たちは、強大な力を持つ一方で、あまりにも若く、優しく、か弱い存在であった。
私も、民も、そして王も、彼らを信頼し、愛していた。

私は彼らを忌むべき存在は到底思えない。
彼らは我々を守るため、命を賭して戦った同胞。義人たち。そうであった。

と、長々と語っていたにしては、自己紹介が済んでいなかった。
私の名前はウォード・アスター
厳つい名前に反して、見目は十に満たない子供と同じ背丈の、小男故、近しい者はリトルリトルと私を呼んでいる。
キュリア王国国王の補佐として、代々王家に使えてきた存在。
先の帝国との戦役では、参謀として、人より小柄な体と、人より少し優れた頭脳を駆使して、若き王を助けていた。


私は、此度の戦乱にて知り得た、『魔神』達のヒトとしての感性、そして姿。