六月一日
今、怒涛の中に俺は居る。
手をもぎ取られ、足はちぎれ、耳は飛び散り、胴さえも海水に漬けられ、ぶよぶよと溶けていく。
心臓から送り出される鮮血は、繋がれる先のない血管から、あんなに長く尾を引きながら流れている。
飛ぶ鳥の、太陽の光線に透かされた羽を見て、海の泡沫となった自分の姿に恐れを抱く。
こうして酸素を吸い込む肺に、パルスを伝える神経細胞に、小っちゃな星の乏しいNaを体内に涵蓄する自己に、鋭く尖ったガラスの破片の輝くのを見る。
今、荒れ狂う海に揉みくたにされ、動かぬ高き空の星と深くうつぼの息する岩陰を見て、沈まぬ自己を恨めしく思う。
ただ一人十万億土の彼方に煌々と輝く星、ぺしゃんこな身体の押し潰された骨を透明な皮膚を通して、オキシルフェリンの茫々たる光を発する深き海の主人、高遠なる大法則と自己の矮小した生物を、泡の間に垣間見る。
成熟せぬ望みとは知りながら、それでも被り来る波に逃げ惑う。
もしも空気よりも軽かったなら。
それとも水銀よりも、重かったなら。
今、断崖の淵に立ち奈落の底に落ちんとする赤く、滴り落ちる暗緑色の源、まあるい炎の出す断末魔の叫びを浴びる俺が居る。