幻覚
「は?」
軽い感じで言った割には衝撃的な友人の言葉に、俺はしばし相手の顔を見つめてしまう。
「なんだ? どうかしたか?」
「どうかしてんのはお前だろ。何だよ、幻覚って」
「幻覚は幻覚だよ。ただ最近見えるようになってきたって言うだけの話だろ」
「何? 冗談か何かか? だとしたらものすごくつまらねぇぞ」
「俺が冗談を言うように見えるか?」
「見えるからこうして問いただしているというのに」
「言っとくがな、俺は本当のことを言ってるんだぞ」
確かに言葉からは信用できる話ではないが、友人の目を見ると嘘を言っていないということが分かった。そのことが逆に恐ろしい。俺は仕方なく話を聞いてみることにした。
「ああもう分かった。とりあえずお前が幻覚見えるっていうのはこの際信じよう。それで、どんな幻覚が見えんのよ」
「そうだな……。たとえば友達と話していたとするだろ? 俺はしばらくそいつと話してるんだけど、気付くと周りの人が俺たちのほうをじろじろと見てるわけだ。俺はそれで気分が悪くなったから、友達の手を引いて別のとこ行こうとしたんだよ。そしたら何故か友達をつかめない。そこで俺は分かったんだ。こいつは幻覚だって」
「……それ、幽霊とかそういう類のもんじゃないのか?」
「いや、その友達自体は実際いるんだよ。それで俺はその友達の幻覚相手に会話してたんだな、これが」
「やばくないか? それ。病院とか行った方が良いだろ」
「行った方が良いって言うのは分かるんだけどどうにもね、行く気になれない」
「何でだよ」
「ただ友達が実際そこにいないのに見えるっていうだけで病院ってのは大げさじゃないか?」
「十分すぎるよ。悪いことは言わないから病院行っとけ」
「一人のときでも友達と会えるんだからお得だろ」
「その考えはおかしい。一人のときでも二次元が相手をしてくれるという考えと同じぐらいにおかしい」
「何と言われようが行かないからな」
そこでぷっつりと黙り込んでしまったので俺にはどうしようもない。なんとか友人を病院に連れて行く方法は無いものかと思案していると、近くの人が俺たちをじろじろと見ていることに気が付いた。どうやら会話を聞かれたらしい。会話の内容からしてこんな視線を受けるのは仕方が無いが、友人が異常者に見られるのは気持ちがいいものではない。俺は友人と別のところに行こうと思い、肩を叩こうとした。
そして手はそのまま肩をすり抜けた。