蝶
早朝の公園は閑散としている。
どろどろ濁った大きな池も、この時ばかりはその水面をきらきらと輝かせ、
襤褸を纏った家無しの男達は風景の一部になる。
僕はひとりでベンチに寝転がっていた。
どこからか飛んできた揚羽蝶が、動かない僕の睫毛にとまり
羽を開いたり閉じたりしている。
ラジオ体操の深呼吸の動きに似ていた。
そういえば今朝は珈琲を飲んでいない。
でも、朝の珈琲なんて本当は飲みたくない。
いつからか習慣になっていただけだ。
飲まない日は一日うまくいかない気がした。
ただの思い込みだとわかっていても、毎朝5~6分を費やして珈琲を淹れた。
「くだらない」
睫毛が揺れた。
そう、くだらない。くだらないけど。
僕は続けようとした。
「貴方達って暇なのね」
蝶は短く呟いて、ぷいと飛んで行ってしまった。
途中、あの家無し達に「あら、おはよう」などと声をかけているようだ。
家無し達は蝶を少しだけ目で追って、すぐに何事もなかったようによたよたと歩き出した。
暇なのね、か。
そうだな、僕たちは永く生き過ぎる。
いいさ、そのうち蝶に生まれることだってあるかもしれない。