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りりなの midnight Circus

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第二話 陸士訓練所


 ミッドチルダの地上に設置された陸士訓練所の宿舎の側には、朝も明けきらない内から威勢の良いかけ声が響き渡っていた。

「クラント、カリス。遅れてるよ、もう少しだからがんばって」

 軽装の訓練服に身を包む集団が、宿舎の隣に設けられた広いグランドを走り回っている。そのどれもが、まだまだ幼さを残す少年少女だったが、そんな彼らを励ますように後ろから声をかけるその声は、そんな彼らよりも更に幼い印象を与えていた。
 栗色に輝く長い髪は頭の片方でまとめられ、整った顔の造形から発せられる笑顔は美人と言うにはあまりにもあどけない。
 体つきもコンパクトにまとめられ、その彼女が着込む訓練服はどう考えても子供の仮装にしか見えない。
 彼女を知らないものがそれを見たら、そのあまりにも場違いな姿に目を見開くだろうが、この時空管理局においては彼女の名を知らないものなど存在しない。

「はい、それじゃあ今朝の訓練はこれで終了。朝食を取り終わったら、午後からはデバイスを使った訓練だから各自準備しておいてね。質問は?」

 まるでさっきまでのランニングを苦にも思っていない様子で、彼女はゆっくりと彼らを見回した。
 空腹で走らされた疲労からか、彼らの誰もが膝に手をついて息を荒くするばかりで誰も質問を投げかけることはない。

「よろしい、では解散ね。お疲れ様」

 彼女、高町なのははそのまま「敬礼はいいよ」と言って訓練場を後にした。

「お疲れ様でした!! 高町教導官!」

 という威勢の良い若者のかけ声を背に受けながら、なのはは少しだけ額に浮かんだ汗を拭って小さく息を吐き出した。

「おーい、なのはー。訓練終わったのかぁ?」

 幼くて威勢の良い、そして少し乱暴な声がなのはの行く手から聞こえた。
 なのはその声に相好を崩し、はじけるような笑顔で手を振った。

「ヴィータちゃん。おはよう。訓練はさっき終わったよ」

 ヴィータと呼ばれた少女は、なのはの隣に立って歩き始めた。彼女は小柄ななのはに比べても随分と身体が小さい。
 長く二本にまとめられた髪と、相手を射貫くような眼差しは歴戦の勇士を思わせられるが、平たい胸の前で組まれた腕とどこかつまらなさそうに浮かべられた表情からはそれを全て台無しにするほどの可愛らしさが醸し出されている。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪