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責任の取り方

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 「本当にすいませんでした」
 「謝ってすむ問題だと思っているのか?」
 そんなことですむわけは無いのは俺でも分かっている。謝るだけでなく何かしらの責任を取らなければならない。部屋にいくつも飾られた猫の写真を横目に見ながらどう落とし前をつけるか考えた。
 
 俺は半年前からペットシッターの仕事をしている。こういうのは何かしらの資格を持っていなければならないかと思っていたが、未経験者歓迎との言葉に釣られ、当時職を転々としていた俺はここで働いてみることにした。
 最初でこそ慣れずに失敗も多かったが、ここ最近では仕事も上手くなり、仕事仲間とも打ち解けてきた。だがここに来てある事件が起こってしまった。
 その時もいつものように預かった猫をゲージに入れ、休憩に入ったところだった。店には俺しかいなく、そしてそんなときに限ってゲージの鍵をかけ忘れてしまったのだ。ゲージから逃げ出した猫は、部屋を出て、店を出て、道路に出て、車に轢かれた。
 猫の飼い主はよっぽど飼い猫のこと溺愛していたらしく、ものすごい剣幕で店に殴りこんできた。店側も明らかにこちらの過失であるため、それ相応の慰謝料を払い、店長も謝罪に行った。だが飼い主はそれだけではすまず、俺を呼びつけた。俺が原因でもあるため呼びつけられるのは別に構わないが、店長が責任を全て俺に押し付けてきたのはなんともやるせない。
 
 そんなわけで俺は菓子折りを持参し、飼い主の家で飼い主と対峙しているわけだが、さっきから心からの謝罪を送っているというのに、まるで受け入れる様子を見せない。飼い主としては俺に仕事をやめるなりなんなり、何かしらの責任を取らせたいのだろう。
 だが問題なのは俺には仕事を辞める気はさらさら無いということだ。俺は今のこの仕事が気に入っている。仕事仲間と溝が出来ているかもしれないが、そんなものは気にせず埋めて行くつもりだ。だからこそこの場は何か別の方法で責任を取り、丸く収めなくてはならない。
 しかし俺は人呼んで『謝罪の帝王』と呼ばれた男。ひとたび何か失敗しても俺のあまりの謝罪の上手さと、責任の取り方の見事さに誰もが罪を許してくれた。今回も俺の才能を最大限に引き出し、大岡越前もびっくりの名謝罪を繰り広げてやる。
 
 さっそく俺は謝る内容を考えようとしたのだが、そこであることに気付いた。何も思い浮かばないのだ。何故だ? ふと、周りに大量に張られた猫の写真を見てその理由が分かった。俺は今まで生き物の生き死にに関わる失敗はしてこなかったのだ。
 こういう時はいったいどうすればいい? 頭をひねり潰すぐらいの勢いで考えたが何も分からない。顔を上げれば飼い主が鬼の形相でこっちを睨めつけている。そして周りを見渡せば幾十もの猫の目が俺を恨めしげに見つめてくる。それは俺から平常心を奪うには十分すぎるものだった。
 
 どうする? 考えろ考えろ考えろ。つまりは俺が鍵をかけ忘れたことで猫は死んだ。つまりはそのために飼い主は怒っている。つまりは飼い主の怒りと悲しみを取り除けば良い。つまりは代わりの猫をあげればいい。つまりは俺が代わりの猫を探して来ればいい。つまりはこう言えばいい。「僕が代わりのペットを探して来ます」そうだ。これでいい。
 「それで、どう責任を取るつもりだ?」
 飼い主が何度目かのその言葉を吐いたので俺は声高々とそのセリフを言う。
 「はい。僕が代わりのペットになります!」
 激しく言い間違えたと気付いたのは殴られた後だった。
作品名:責任の取り方 作家名:ト部泰史