音と私たち
どきどき、どきどき。
心臓が鳴り響いてみんなに聞こえているような錯覚。
それは心地よくもある緊張感。
みんな体を強ばらせているようで弛緩していて、緊張しているようでリラックスしていて。
つまりそれはほどよい緊張。
私たちの学校の名前が呼ばれて、私たちは舞台に立った。
明るく照らされた舞台に、楽器が反射して輝く。
席に着けばみんな指揮者に視線を集中させてもう仲間のことしかわからない。
ひとたび指揮者が腕を振り下ろせば、私たちは音の中にいる。
トランペットは高く高い綺麗な音でみんなを引っ張る。
サックスは華々しく音を宙へと放つ。
フルートは美しく気高い音を紛れ込ませて時に響きわたる。
トロンボーンは中低音の響きでみんなを抱く。
クラリネットは独特な音で音の中から顔をだす。
ホルンは優しい音色で皆を包み込む。
パーカッションの楽器達は曲をいっそう盛り上げてくれる。
チューバは低い安定した音でみんなを支える。
そして、指揮者はその音を操る。
私たちは演奏者ではなく音で、音となってひびかせている。
会場中に隅々までいきわたって人の心に入り込む。
演奏が終わってしまえば心地よい疲れと大きな拍手と歓声。
舞台袖にはけて、みんなで笑いあって泣いた。