恋愛小説のようには
きっと、この感情をみたら、父は驚いて気絶してしまう。
「雅っていうのは、お前の母親の名前である雅子からつけた名前だ。いい女だった。あけったなく死んだけどよ」
「知ってる」
酔えば、いつもいっている母のこと。
父にとっては、一番の人なんだろう。
俺の母、俺が憎いと想う女性であり、感謝してもしたりない女性。
父をずっと独占しつつげて、そして、俺と父を逢わせてくれた。
「父さん」
「ん」
「好きだよ。これでも結構、悩んだんだ。苦しんだよりもしたよ」
「いっちょまえにか?」
俺が頷くと、父に歩み寄る。父は不思議に俺をみている。俺はキスをした。一瞬だけだ。肌のかさつきと潮の味がした。
「バイバイ」
俺は父から離れて、海に向かう。
夕暮れの赤い海に向かって歩き出す。
初恋の人とキスをした。
ばんざーい。
よくやったと、自分を褒めてみた。