小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

中毒

INDEX|1ページ/1ページ|

 
俺がタバコをやめようと思ったのは何度目のことか。毎回いいとこまで行くのだが最後の最後で吸ってしまう。
 そもそも俺がタバコを吸い始めたのは大学生のころだった。先輩に誘われ吸い始めたと記憶している。小さいころは親父が吸っていて、タバコを親父もろとも煙たがっていたものだが、親父が死んだ今となっては普通に吸っている。思うに、俺はタバコを嫌っていたのではなくて無責任な親父を嫌っていたのだろう。
 そんな俺が禁煙を決意したきっかけはといえば、月並みではあるが健康を気にしたからだ。そのころ気づけば一日三箱消費していて、自分でもどうかと思い始めていた。それに親父の死因が肺ガンだったということも意識していたのだと思う。
 どうすればやめられるのだろうか。思えば、前回禁煙剤を使用したときは後もう一歩というところだった。それから考えるに、違う禁煙剤を使用すればもしかしたらいけるのではないか、という安易な考えを思い付き、俺は実行に移すため薬局へと向かった。
 薬局にはちょうどいいことに、最近発売となった製品が並んでいる。俺は特に確認もしないまま、そのなかから五、六箱を手に取りレジへと向かう。店員には軽く妙な顔をされた気もするが、俺にはこれだけあったほうがちょうどいいだろう。それから家に帰り、さっそく口に含んでみたが妙な味がする。だが、良薬口に苦しとの言葉がある。俺はなんとか飲み下す。
 するとどうしたことだろう。最初でこそ変わらなかったものの、三箱吸っていたのが四日後には二箱、八日後には一箱と次第に減ってゆくではないか。最近では気のせいか空気がおいしく感じる。このままいけば禁煙できるのではないか、そう思ったのだが――。
 異変に気づいたのは三週間後のことだ。たしかにタバコはもうほとんどと言っていいほど吸っていなかった。しかしそのかわりに、今度は禁煙剤がやめられなくなっていたのだ。最初は気のせいだと思っていたが、タバコの量と比べ薬の量が反比例して増えてゆく。
 一ヵ月後には完全にタバコをやめられていた。だが、問題は完全に禁煙剤中毒となっていたことだ。最初に買った箱はもうすでに使いきっており、今飲み込んでいるのが十箱目となっている。
 日がたつにつれ、次第に頭の中が薬にまみれていく気がする。仕事中も薬のことを考え、まるで身が入らない。別に多く服用したところで体に害があるわけではないが、このままでは生活に支障をきたす。俺は何とかやめる方法はないかと考え、思いついたのがアメ玉だった。飲みたい、と思ったときに代わりにこのアメを噛み潰し、この依存症状を何とか押さえつけるのだ。
 これならいける、と思ったのもつかの間。症状はさらにひどくなった。今までの禁煙剤の依存に加え、今度はアメもやめることが出来なくなっていた。薬を飲んでいないときは四六時中アメを貪り食っていて、ゴミ箱を見れば包み紙であふれかえっている。
それから先は負の連鎖だった。アメをやめるためにガムを噛めば、もう口から出ることは無く、ガムをやめるためにジュースを飲めばペットボトルの山が築かれる。そして気を他に向けようとしゲームをやれば朝までやる始末。
 そのあともさまざまな中毒が加わっていった。口の中には常に何か入っており、まともな食事も取ることもできない。仕事も休みをとっているが、このままではクビになることは明白だ。やっかいなことに医者に行っても治らない。俺は狂いそうになる頭を使い、この現状から脱出する方法を探した。どうにか楽になることは出来ないだろうか。救いは無いのか。
 そしてある日それらの依存症状はぱったりと無くなった。
 俺が再びタバコを吸い始めたからだ。
作品名:中毒 作家名:ト部泰史