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満月ロード

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(魔法が使いたい!!) 
 
 口では言えないから、アマシュリやリベリオ、ヴィンスに向かってテレパシーを送った。
 シェイルにまで送ると、使ってしまえと冷たく言われてしまいそうだったので避けたが。
 あまりしたくはなかったのだが、右足に体重をかけ、地を蹴りつけ横に転がるように避ける。地に手をつき、自分の身を押し上げて再度足を地につけた。しかし、ゆっくりしている暇をも与えず、次から次へと使用してくる魔法に、だんだん苛立ちを覚えてくる。

「アマシュリ!」
「はい!」
 
(魔法を使うことを許すから、あの魔物を止めてくれ…)
(いいのですか?)
(お前だったら問題ないだろう)

「攻撃を仕組んできたあなたが悪いんですからね」
 
 そう言って、アマシュリは両手を黒髪の魔物のほうへと向け、得意の拘束魔法で黒髪野郎の身体をきつく硬直させる。

「なっ…貴様魔物だったのか…どうして人間の味方に」
「事情がある故」

 拘束された魔物は、アマシュリが魔物だということに気づき、どうにか抵抗してやろうと暴れ出すが、そう低級魔物にアマシュリの拘束魔法から逃げ出すことなんかできやしないだろう。
 その隙に、黒髪野郎の目の前にジャンプし近寄ると、一度鞘に納めた剣を抜き、首を綺麗に跳ね飛ばしてやった。
 うるさかった殺気が、ようやく静まりかえり、緊張の糸が切れたアマシュリは、その場に崩れるように座り込んでしまった。

「無事か? アマシュリ」
 
 剣に付着した血を振り払い、鞘に納めてアマシュリのほうへと向かった。
 何とかといわんばかりに、片手をあげて見せていた。

「…お前魔物…だったのか」
 
 ルーフォンの存在を忘れていた。
 抜いていた剣先を、座り込んでいるアマシュリの首元にあて、口を再度開く。

「答えろ」
「…そうだよ。魔物だよ…。だからなんだよ」
「なんだよだと!?」
「実際僕はルーフォンに対して攻撃を仕掛けたか? 違うだろ?」
「ルーフォン。魔物を毛嫌うのはわかるが、俺の親友にまで手を出すとなると、俺はお前を殺さなければいけないのだが?」
 
 アマシュリに魔法を許したのは俺だ。それに関して、アマシュリに手を出すようだったら、どんなにいいやつだろうが容赦なく殺さなければならない。
 剣を抜かず、ルーフォンの目を見つめ、手を出すなと瞳だけで脅して見せる。
 ルーフォンが魔物に対して、何らかの怒りを見せているのは知っている。だからこそ、魔物であるアマシュリを許せないのだろうが、今の現状でアマシュリに手を下して罪があるのは、ルーフォンとなってしまう。それは、ルーフォンにだってわかっていることだろう。
 ゆっくりと剣を握る力が抜けてきているのに気づいた。
 諦めたかのようにいったん目をつむり、剣を鞘に納める。

「そうだな。今まで黙っていたのも、俺が魔物を毛嫌いしているっていうのを知っていたからだろうし、魔物が人間の街に堂々といることを知っている人が増えるのが困るからだろう」
「そんなとこ」
「しかし、聞かせて頂きたい。どうして人間であるシレーナと、魔物であるアマシュリが手を組んでいる?」

 ルーフォンは、自分を落ち着かせるためにか、その場に座り込み胡坐をかいた。その自分の右ひざに右ひじを乗せ、手の平に顎を乗せた。相当考えているのだろう。
 そう深く考えないでいただきたいのが本音なのだが、ルーフォンにとっては大事なところなのだろう。

「魔物に襲われているアマシュリを、俺が助けただけ」
「たったそれだけか?」
「たったそれだけでも、命の恩人だと感じるのです。魔物は、自分が慕う一番のものを知っている」
 
 アマシュリは、俺の適当な嘘に乗ってくるように、そう口にした。
 確かに、魔物は自分が慕い、尊敬する者に対しては、従順になる。しかし、それは人間も同じだろう。だから、ルーフォンにだってわかるはずなのだ。
 
「だからアマシュリは、シレーナを立場が上だと言い、文句は言いながらも口調に馴れ馴れしさを感じないのか」
「そういうこと。だから僕はシレーナを護りたい。力にはなれないとは思うけど、今回みたいに敵を拘束するくらいだったら、僕にはできる」
「…先ほどは悪かった。魔物はすべて敵だと決め込んでいたから、つい剣先を向けてしまった」
「わかってます。気にはしてない」
 
 
 
 
 
 
 
 
作品名:満月ロード 作家名:琴哉