満月ロード
魔王が闘技場にて楽しんでいるとき、魔王の城では…。
「おっ菓子〜おっ菓子ぃ〜」
「リベリオ…。生き生きしてるな」
「魔王様のためなら、どんな料理も作って見せましょう!」
大人しく料理をしていればいい男だが、口を開かせてみたら、全てにおいて魔王様命。一度、魔王様がシェイルを殺せるかという実験のため、リベリオに毒を盛らせようとした時も、シェイルを気にせず毒入り料理を楽しそうに作成した。
もちろんそんな策略は見事に破れた。
破れたというよりも、魔王様がそんな策略を忘れ、シェイルのために用意した毒入り料理に手をつけ、案の定魔王様が嘆いた。そんな姿を見たシェイルは、もちろん料理人を疑う。犯人はもちろん時間がかからずリベリオだとばれた。
運よくヴィンスに治癒された魔王様の言葉にて、リベリオの命は助かったものの、暫くの間シェイルはリベリオを警戒し続けたという過去がある。
作りあがった三時のおやつをカートに乗せ、魔王のいる一室へと足を進めた。
もちろん、今の魔王がコピーだというのは知っている。コピーが作成された日、スイーツを持って行ったところ、いつもと微妙に違う反応を見せたところで違う魔王だというのに気付いた。真相を知った時は、かなりのショックを感じたが食べてくれることに違いはない。怪我をしないかと不安ではあるが、そう簡単に傷をつけられるはずがない。
「信じていますよ魔王様!」
そう響かせながら一室に入るなり、シェイルの冷たい瞳が向けられる。
たぶん、城の中であまりシェイルを気にしないのは、リベリオくらいだろう。どんなにドンヨリとした雰囲気になっていたとしても、持ち前の明るさで入ってくる。
「リベリオ…」
「あら、魔王様。今日は目を開けていらっしゃるのですね」
「うるさいぞリベリオ」
「うるさいのはお前だシェイル。いつも隣にいるのだから、たまには俺にも話させろ」
「…」
シェイルに向かってアッカンベーを向けるが、すぐに魔王に向き直り、手を合わせる。
「魔王様の大好きなスイートポテトオンリーにしてみました! っていうより、多く作ったら魔王様のご機嫌がよろしくなくなるからなんだけど……」
「リベリオ」
「ま、魔王様! 今日はおしゃべりになるのですね」
「あー。耳元でうるせぇよ相変わらずだなリベリオ」
「おや? 魔王様?」
魔王なのには違いないのだが、今までのコピーではなく、魔王本人のしゃべり方だ。
不思議に思い、ゆっくりと魔王の頬に触れてみる。今までの冷たい魔王ではない。温かく、生きていると思わせられるような感触。
いつもなら冷たく振り払われるのだが、そっと微笑まれるなんて、やっぱりコピーだったのだろうか。そう不安になるが、魔王は立ち上がりリベリオに背を向ける。何をするつもりなのかと、首をかしげると首だけ振り向き、ニッと子供のようにほほ笑んだ。
「ホレッ。いつもおいしいお菓子を作ってくれるお礼」
そういうと、気分が良いときの尻尾を上機嫌に出してくれた。
ホレホレと、猫じゃらしのように右に行ったり左に行ったり。その姿があまりにも可愛くって、ついつい後ろからギュッと抱きしめてしまう。
「ぬおっ! そうくるか」
「やっぱり魔王様は抱き心地が良い。こう、腕にすっぽり入って、護ってあげたくなるような大きさってぇっ」
「くっつくな」
リベリオの言う通り、すっぽりと腕の中に魔王が入って楽しんでいる最中、邪魔をしたのはシェイルだった。
後ろから首をつかむように引き?がした。
「ところで魔王。勇者候補のほうはどうです? 何かあったから精神交換を行ってきているのでしょう?」
「んーまーね」
「報告を」
「それがさ……」