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モノガミものぽらいず

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すずめ☆実況解説 2



「カオスじゃ!」
 そう言って、ウチの恩師・数学博士の小室先生は、大学を飛び出していった――
 ――のは、もう五年も前の話や。

 で――
「ほうほう、こりゃまた、面白いお客さんじゃな」
 見た目、とってもうさんくさ〜い、薄暗〜い小屋の中で、ウチはいつもの仮面を付けて、ファンキーなグラサンかけた、食い倒れ太郎みたいな格好のオッサン――小室先生と対面していた。
 ほんで、目の前の椅子には、ハクビちゃんが座っとる。
 ウチが言うのもなんやけど、小室先生はチョー変人やねん。カオス理論の信奉者――っちゅーよりは狂信者で、『遥か未来の冷えた宇宙』っちゅー結論に絶望しとる一人でもある。遥か未来の結末にビビってどないすんねんな? しかも大学辞めて、なんで現職が場末の占い師やねん? 絶対アタマ悪いわこのオッサン。
 ……とは思うけど、ウチにとっては、今はこのオッサンから得られるインスピレーションが必要やねん。
「……あ、あのぅ……」
 ハクビちゃんもさすがに、こないな変人目の前にして、少々ビビッとるし。落ち着きなく、自分のシッポ毛弄んどる。
「あーあー、心配せんでええ。このオッサン、取り敢えず人畜無害やから。齧ったりせぇへん」
「ほっほっほ。言いたい放題言ってくれるのぅ。この天才娘は」
 このオッサンにとって、『天才』はホメ言葉ちゃうねん。ケナシ言葉やねんけど、どーでもえーわ。事実、ウチ天才やし。
「で、先生? 占った結果、どやねん?」
 手に持ったタロットカードと筮竹に水晶玉。それらを撫で回しながら、小室先生はニヤついとる。なんの占いかサッパリ分からへん。
「ん! ズバリ!」
 言って、先生はウチの方に手を伸ばす。
「……手?」
 相変わらずの謎かけみたいな返答。なに言いたいんかサッパリ分からん。
「いや、五千円」
「前払いかいっ!!」
 思わずツッコむウチ。しゃーないな〜……
 がま口から、折り畳んだ五千円札を手渡す。
「で、答えは? このハクビちゃん、想い人に人として見てもらうには、どないしたらえーねん?」
 そうウチが訊くと――
「まず、コレが現実」
 そう言って、先生は一頻り五千円札を広げて見せ、財布に仕舞った。
 ……サスガや。一筋縄ではあかんらしい。サッパリ意味不明や。
「分からんな〜……」
 ウチの呟きに、先生は溜め息をつく。ムッカツクじじぃやなぁ……
「ワシが今仕舞ったのはなんじゃ?」
「……五千円?」
 そう答えた刹那――
 ぶんっ!
「うおぅっ!?」
 ウチの仮面を掠めて、水晶玉が飛んでいった。
「コロす気かいなっ!?」
「せっかちな娘じゃの〜……まずは、っちゅーたじゃろうが。五千円、は間違っとらん。しかし、あれはその前に、日本銀行券であり、ただの紙であり、印刷物じゃ。金属でもなければ、肉でもない。価値を決めるのは、それを手に取って『見る者』よ。いやはや情けない。お前がそれを理解しとらんとはなぁ……」
「……あ。そう……か……」
 刹那、ウチは唐突に理解した。
「……観測者……しかし……観測結果に個人差があるっちゅーコトかいな……?」
 ガスガスガスガス!
 突然、背後の壁に筮竹が突き刺さる!
「ぎゃあああぁぁぁ!」
 その数本は、確実にウチのホッペタを掠めていた。
「そっから先は、お前の専門分野じゃろが! 甘えるな! ……なぁ、しっぽの嬢ちゃんや」
 不意に、先生はハクビちゃんに優しく微笑みかけた。……キモい。こないな表情初めて見るわ。
「あ、はい……な、なんだべか?」
「身内に不幸があったんじゃなぁ。……でも大丈夫じゃ。嬢ちゃんは、幸せになるぞ。思ったように行動せい」
 先生の言葉に、しかしハクビちゃんは俯いた。
「……で、でもおら、人じゃねぇだし……」
「それじゃ、ワシの嫁にならんか? ワシはいつでも大歓迎じゃぞ? 嬢ちゃんかわいいしのぅ」
 言って、先生はにんまりと笑う。
「やっ……いやんだぁもう! おっちゃん、からかってはダメだべ〜〜っ!」
 めり。
 ハクビちゃんの一撃が、スケベジジィの顔面を捉えた。
「……動かへんくなったな」
 ウチがぽつりとそう言うと、
「……あ、え? ああっ! おっちゃん大丈夫け? おらどうしよぅ〜〜〜」
 泣きそうな声で、うろたえるハクビちゃん。
「ま、えーから。自業自得や」
 言って、ウチはハクビちゃんを引きずって小屋を出た。