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彼女はいつものシニカルな笑みを浮かべ

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「なぁ、面白いか?」

 「面白いわよ」

もう何度目になるか分からない問いかけに、もう何度目になるか分からない返答。
狭い部屋に響くのは、ただセンターキューブが回る音。

 「143秒……やっぱり、ここが壁なのね」

音が止み、声が鳴る。ストップウォッチの液晶をノートに書き写し、溜息が一つ。彼女の最高記録は140秒だそうな。

 「飽きないよなぁ、ルービックキューブ」
 
3×3×3の立方体。その6面の色を揃える玩具。プロが居る事も知ってはいるが、俺には今一つ理解の出来ない世界である。その上彼女が弄くり回しているのはそれの進化版――リベンジキューブという、4×4×4の物だ。

 「あんたこそよく飽きないわね」

 「何が」

 「何をするともなく、そこに座ってて」

 「……暇潰し、だよ」
 
西日の差す教室。ここは手芸部の活動場所である。
しかし今日は活動日ではないにも関わらず開放されている。目の前に居る彼女のためだ。

 「暇潰し、ねぇ。だったら図書室に行って本を読んだら? 余程為になると思うけど」

 「本は嫌いだ」
 
俺は帰宅部。手芸部とは何の関わりも無い。が――ちょっとした縁があり、今ここに居る。彼女は、活動の無い日にこうしてひたすらリベンジキューブと格闘している。副部長なので鍵を持っているのだ。

 「嫌い、ねぇ」
 
オウム返し。彼女は確認するかのように人の言葉を繰り返す癖があるようだ。二週間ほど前にそれを指摘したら「気のせいでしょ」と取り合って貰えなかったが。
そんな言葉だけを残し、綺麗に揃った面を無造作に回転させ始めた。終わったばかりにも関わらず。
カリ、ゴリ、と特徴的な音が鳴る。徐々にスピードは上がっていき、俺の目では追えない速度で指が動き出した。捉えられるのは面の色が変化した、という事象のみ。フィンガーショットカットと呼ばれる技を彼女は何気なく使う。

 「別にいいだろ」

 「そーね」

 「気のない返事……」
 
キューブを手に取ると、彼女には六つの正方形しか目に入らない。タイムアタックを始めると尚更で、一言でも発したなら追い出される。
だから俺は、それを黙って見ているだけ。