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ひとりかくれんぼ/完結

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5月26日 03:39(水)




 ほぼ同時刻に、井坂サンは"見つかった"という書き込みがある。私のケータイの電源は入らない。私とサチはほぼパニック状態に陥っていた。

「どうしよう、どうする!?」
「そんな…」
「怖い!もう行こうよ!」

 サチが立ち上がって、私の腕を引いた。
 私ももう逃げ出したかった。心の奥で、何かあって欲しいと願っていた。そういうのはきっと、きっと、何も起こらないだろう、という予想。しかし、起こってしまった何か。井坂サンの書き込みを見ただけでは、これほどのパニックにならなかったのかもしれない。狂言かもしれない。そう思えば、まだ正気でいられたかもしれない。しかし、いきなり落ちてしまった私のケータイの電源。故障かもしれない。けれど、たったそれだけのことが今はとてつもない恐怖感を沸き起こす。

「ちょっ…でも、井坂サンは」
「井坂なんてどうでもいいじゃん!やばいから、マジやばいから、立って!」
「サチ、落ちつこうよ」
「落ち着いてらんないから!おかしいし!きもい!」
「あんまり騒ぐと隣の人が…落ち着いて!」

 その恐怖感とサチとは裏腹に、私は落ち着いていた。サチの両腕を捕まえて、少しだけ声を荒げた。
 落ち着いて、と言い聞かせていたのはサチではなく、自分に、かもしれない。サチは、私が大声を出すと、驚いたようにその場に固まった。落ち着け、落ち着いて…。強くサチの目を見つめると、サチは暫くしてすとんとその場に崩れた。

「…どうするの…ってか、何もできないしょ…」
「取り合えず、2ちゃん見てよう。逃げるとか、絶対…後味悪いし、何かあったら…」
「どうすんだよ…やばいってば…」

 私は、電源の入らない私自身のケータイはさておき、サチのケータイを再びリロードした。



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 285 2010/05/26(水) 03:39:51 ID:tapajv9t0
 名前:
 見つかった?もうじゃあやめろ。大丈夫か?

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 288 2010/05/26(水) 03:40:42 ID:ysfoLwiH0
 名前:ナナ◆uDJlrKOaro
 部屋に女がいる
 こっちみてる
 見つかってる

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 296 2010/05/26(水) 03:43:16 ID:Eatapfar0
 名前: 
 だからやめろっていってんだろ
 釣りならやめろよ つまんねーから

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 298 2010/05/26(水) 03:44:122 ID:ysfoLwiH0
 名前:ナナ◆uDJlrKOaro
 >>296
 釣りじゃないです!
 怖い、どうしていいかわからない
 どうしたらいい
 動けない
 出れない

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 301 2010/05/26(水) 03:45:22 ID:tapajv9t0
 名前:
 子供いなくなった?
 部屋の外に友達いるんだろ?
 とりあえず、そいつらに連絡して。
 とにかくナナは落ち着け。
 ひっひっふー

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 296 2010/05/26(水) 03:46:11 ID:k+AoiTktO
 名前:
 落ち着け。
 怖くても人形に塩水をかけない限り、
 終わらないんだぞ。
 勇気を出して終わらせにいけ。

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 逸る心臓。ドクドク、ドクドク、と脈打ってうるさい。心なしか、息も上がってきた。

「連絡来るかも」
「やだ!私のケータイじゃん!」
 
 サチが私の手からケータイを取り上げる。私が声を上げるよりも先に、サチが自らケータイの電源を切って、立ち上がる。

「サチ!」
「もう無理!意味わかんない!帰ろうよ!ううん、愛が帰らなくても私帰るし!」
「待ってよ!2ちゃん見てなきゃ分かんないじゃん!」
「なんで!?もうどうでもいいじゃん!怖いから、もう嫌!帰る!」
「井坂さんは!井坂さんはどうするの!」

 私が叫ぶも、サチは持ってきた白いバックにまだ封を開けてないお菓子やら飲み物をさっさと入れてしまう。

「井坂とかどーでもいいから!あいつがミスったのが悪いんでしょ!」

 そう言って、サチは早々にその場から立ち去ろうとした。
 その時だった。



 トン、トントン…
 トン…トン、トン…



 微かに、背後から―…背後のドアから音がした。
 それは、まるで内側からそのドアをノックするような…。

「ひっ…」

 サチが声を上げた瞬間、腰を抜かしていた。大きくしりもちをついた瞬間、サチのバックから、ケータイが落ちた。
 そして、その落ちたケータイの画面がふいにぱっと付いたのだ。そして、バイブ音、メール着信…差出人は、井坂ななみ。


「なに、これ…」
「い、意味わかんない…さ、さっき電源落としたはずなのに、なんで、」


 着信を表すライトがピカピカと赤く光っている。
 サチはケータイを拾えずに、しりもちをついたままだ。



 トントン…トン…
 トン、トントントン…



 ドアを叩く音、メール着信。
 怖い、怖い怖い怖い…怖い。私はそっと、サチのケータイに手を伸ばした。サチはもう、何も言わない。うっすらと涙を浮かべている。私は、新着メールを開いた。差出人は確かに、井坂サンから。さっきの掲示板を見たとおり、私たちへのヘルプかもしれない。そっと、受信箱を開けた。携帯を握った手のひらが汗ばみ、親指が震えた。