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響き

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ベッドの中から彼が先に抜け出して行ったのに気付き、俺はぼんやりと覚醒に向かう。やけによく眠ってしまった。ゆうべは少し飲みすぎたかもしれない。酒に弱い俺にしては、なので、さっきまで隣で一緒に眠っていた相手とは比べ物にならないけど。
 広いベッドの中でうーん、と伸びをする。まだかすかに体温の残る隣のスペースに触れると頬がゆるみ、唇は自然と笑みを形作った。
 夜一緒に寝て翌朝同じベッドで目覚めるという、この普通とも言える日常がとても幸せなことだと知っている。そして、それはちゃんと覚えておかなければならない。幸せに慣れすぎて、忘れてしまわないようにちゃんと。
 音を立てないように静かに彼が近付いてくるのに気付いて、シーツから顔を出した。彼は俺と目を合わせ、薄く微笑む。
「起きてた?」
「……ん、今」
 小さく答えた俺に満足そうに頷き、ベッドに腰掛ける。そして長身を屈めて、触れるだけのキスをくれた。
「おはよう」
「おはようございます」
 しっかりと目を合わせての、朝の挨拶。たったこれだけが、本当に幸せだと思う。
 突然、彼は喉の奥でククッと笑い出す。何だろうと視線だけで問うと、その大きな手で俺の頭を撫でながら、言った。
「すごい寝癖」
 その言葉が本当に、ほんとうに優しく響いて。
 唐突に俺は、「愛される」ということを理解したのだった。
作品名:響き 作家名:市ノ瀬