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みとなんこ@紺
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グッバイ・アーリーバード

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3.









「・・・てことがあったんですけどね。ガッコ出た直後で勝手が分からなかったモンで」
「またくだらない事をいう上もいるものだね」
「でしょ。職権乱用もいいトコですよ」
ふい~と肺の奥まで吸い込んだ煙を吐き出しつつぼやいてみせる。
切れかけたニコチンを補充して、更に気分は上々。だいたい、もうここまで言ったら怖いモノなしだ。しばらく押し込めてきた筈のたがが緩んでいるらしい。
それとも同席者が意外に聞き上手、なのか。どうも調子に乗らされているような気がしないでもなかったが、どうせ最初から向こうに主導権を握られているような物だし、今更気にする事はないが。
「ほんっと軍人なんてなるもんじゃないっスよ。理不尽な命令一つでポンポン飛ばされるし、拒否権ないし」
「まあそれが軍隊だからね」
「野郎ばっかでムサイ事この上ないうえに、華はないし」
「そこは大いに賛同する所だな」
…というか、向こうもしれっとした顔で結構色々言っている。
真顔で大仰に頷かれ、思わず笑ってしまった。
「そちらもですか」
「ああ・・・と言いたいところだが華はあるな。・・・ただし」
「ただし?」
「文句なしに大輪の華だが…、どうにも棘が鋭くてね」
「・・・はぁ、なるほど…」
「休憩を少々自主的に長引かせたりすると、それはもう恐ろしい事が起こるんだ」
「・・・・・・。」
・・・どういうことだろう、それは。
微妙にツッこんで聞いてみたい所ではあるのだが。遠い目をして窓の外を眺めたりなんかしている目の前の男を見ていると、何となく世の中には知らないでいた方が良さげな事がある気がしたので、そこにはあえて触れないでおいた。
「・・・ま、良いじゃないんですか、華は華なんだし。それより問題は明日ですよ。あー…、予想以上に凄いのだったらどうしよっかな」
「君は一体どんなのを想像してるのかね」
呆れたように溜め息をつかれたが、だって英雄って凄そうじゃないですか。そう返したら、さらに呆れられたようだった。
「だいたい『マスタング』なんて厳つい名前の上司なんて、どうせ名前の通りごっついヤツに決まってますよ。やんなっちゃうでしょ?」
調子を変えて軽口に紛らわすと、一瞬の間があった。
「――――確かにそいつは災難だな」
浮かべているのは盛大に笑いたいのに笑えない、みたいな微妙な表情。・・・判別しにくいが、どうも楽しんで頂けているようで。
その噂の、これから配属になる東方司令部の実質の指揮官の名は焔の錬金術師、ロイ=マスタング中佐。
火蜥蜴を従えた錬成陣を操る国家錬金術師。
内戦時の冗談のような戦績の数々で、その名と二つ名は広く――一部には多大なる畏怖と共に――知られていたが、直接本人を見た事はない。
確か終結直後の叙勲式ではるか遠くから見たような気がしないでもないが、そういう式典自体に興味がなかったのであまり記憶にないのだ。
しかし、もしかしたら彼はその噂の上司を知っているのかもしれない。
「・・・見た事あったりします?」
「品定めは会ってから、だろう?」
案の定、ハタかれた。
否定しないという事が肯定とイコールになるか、この男の場合は当てはまるか微妙なラインだが、教えてくれる気はないらしい。
そこでハタ、と我に返る。
「えー…東部所属の方で?」
「さぁ?何故そんな事を?」
「いや、こんな適当な事を言ってんのバレたら流石にマズイかなぁ、と」
ニヤリ、と口元をつり上げて笑うと、彼からも同じように人の悪そうな笑みが返ってくる。
「今更遅いと思うがね。まあ私が東部に行っても、一々そんな前情報を言いふらす程ヒマではないよ」
さて、どーだか。
相変わらず穏やかな笑みを絶やさない表情からは、まったく真意が読み取れない。
結局、どちらの所属かすらバラして貰えなかったし。
一つ息をつけば、彼は一つ聞いて言いかね、と問い掛けてきた。
「さっきからあれだな。君は『イシュヴァールの英雄』に何か引っ掛かりでもあるのかね」
「うーん・・・。いや、個人的には別に・・・」
ただ、
「英雄なんて呼ばれるの、ろくでもないと思うんで。…自分ならゴメンだなぁと」
「――――何故?軍人ならば最高の栄誉の筈だろう?」
すぅ、と彼は僅かに目を細めるようにしてハボックを見つめた。
無言で続きを促されている。穏やかそうな表情こそ動かないが、その瞳の奥、光を呑み込みそうな闇の色が少し変わった気がする。

引きずられる。

目を伏せて、取りあえず一度視線を逸らした。
――――どうして?
何故かって、それは。
目を伏せた先、組んだ自分の手に無意識に少し力がこもるのを他人事のように見た。
「・・・・・・戦時中の栄誉なんてのは、ようは人を殺した数と比例する、って事でしょ」
どうにか選んで絞り出した言葉に、彼は至極あっさりと「概ねそうだな」と頷いた。
「一人を殺せば罪人、戦争で百人殺せば英雄とは言うな。だが、ようは同じ事だ」
「…でもその人は『英雄』で通っているわけでしょ」
「そうらしい」
「だから・・・」
言い淀んだ所を無言で促される。
――――ああ、何やってんだろう、俺。
「・・・それに、肩書きにふんぞり返ってるよーな恥ずかしいマネするような上だったら嫌だなぁ、って」
こんな見ず知らずの得体の知れない人に向かって何を。


「「・・・・・・。」」


を。




「・・・何、笑ってんすか」
決まり悪い。
らしくない、(だが本音でもあるんだが)事を言ったかもしれないという自覚はある。
あるが・・・笑う所か、ここは。
憮然としたハボックを見遣ると、彼は軽く手を上げて思いの外柔らかい笑みを浮かべた。
「・・・いや、若いな、と」
「・・・・・・。」
「失礼。…だがそれは正常な思考だろう?一体何を憂うのかと思ってね」
「・・・もし、そーゆーとこを判ってないのが上なら、また色々やっちまいそーだなって」
「さっきから問題発言が多いな」
普通であれば聞き咎められれば罪に問われかねない言葉の数々を、彼はさらりと聞き流した。
「いっそ軍を辞めようとかは思わないのかね」
「…借りがあるんス」
「軍に?」
「――――…まぁ、そんな感じですかね。借りた物は必ず返せって親の教育で」
「律儀な事だな」
・・・本当に何やってんだろう、俺。
がしがしと頭を掻いて、灰皿に短くなった煙草を押し込んだ。
「本職、カウンセラーか何かですか?」
「何だね、いきなり」
「ぼーっとしてたら、何でもベラベラ喋っちまいそうですよ」
ふかぁく息を吐き出し、新しくもう一本取り出して銜えると、彼はまた殊更爽やかに笑った。
「何かアドバイス出来るなら、まずは禁煙を勧めるね」
「あー・・・。それ無理ッス、ほんとに」
ぱたぱた、と手を振るとあからさまに舌打ちでもしそうな顔をされた。
「君、そんなだから女運がないんだよ」


げふ


「・・・ッ・・・」
「タバコ臭い男は女性に嫌われるぞ。・・・おや、どうかしたのかね」
「て…ッ」
「て?」
「訂正してください…ッ」
「ならそれに値する証拠を見せて貰いたいものだな」
うっわ、何その物凄い勝利を確信したカオ。
だが男は人の傷を抉っておきながらまったく気にした風もない。