彼岸(HIGAN)
昨日も一昨日も、いやもっと何年も前からだ。
雪の日も、激しい嵐の日もここにいた。
魚が釣れたことはない・・・。
人と出会うこともない・・・。
が、今日は違った。
ふと気付くと背後に坊主が立っていた。
「迷っておられるな・・・」
坊主がポツリと言った。
確かにここ何年も眠っていない。
それどころか、食事をした記憶すらなかった。
よほどのバカでもない限り、それが尋常でないことは理解できた。
だから・・・。
「わかっている」
と、俺は答えた。
「ならば拙僧が送り届けてしんぜよう」
坊主は懐から数珠を取り出すと、おもむろに経を読み始めた。
だが、俺は思わず「無理!」と口走ってしまった。
と、今まで穏やかだった坊主の表情が一変し、クワッと目を見開くと、
「まだ、この世に未練を残すと申すか!」
と、怒声をあげたのだった。
俺は一瞬たじろいだものの、すぐに冷静さを取り戻し、
「いや、そういうわけではないのだが・・・」
と、その理由を語った。
つまり俺が言いたかったのは、自分自身も死んでいることに気付かぬ坊主では、他人を救うことは無理だということだった。
案の定、それを聞いた坊主は大パニックを起こしていた。
――― おわり ―――
作品名:彼岸(HIGAN) 作家名:おやまのポンポコリン