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涼の風吹く放課後 お試し版

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第二章/獣欲のアンタッチャブル



 クラス割りの掲示板前から、割り当てられた教室にそろそろ行く時間だ。
「じゃあ、行こうぜ」
 涼に声をかけて校舎に向かおうとすると、涼は一瞬躊躇したように見えたが、すぐに俺の後をついてきた。背中が妙にくすぐったく感じるが、この後のことを考えると自分のことで少し気が重い。
 廊下からでもガヤガヤと話し声が響いていた一年二組、俺は半歩後ろの涼にちらりと目くばせをして、教室に入る。何人かが、俺と涼に気付いて、視線を注ぐ。どういうわけか、あまり歓迎されている表情ではなかった。
 同じ中学からの生徒も2〜3人はいるはずなのだけど、俺が主につるんでいた連中の姿はない。俺の友人は概ね成績が良く、多くは私立高校に進学した。同じ高校に進学した数少ない友人は別のクラス。いくつか俺に注がれるのは、じとっ、とした視線。
 しかしその数倍の視線が、俺の数歩後ろにいた涼へと送られていた。そこには多分に奇異の目が混じっているようだ。「きたよあいつ…」などという男子の声、「えー、やだー」という遠慮のない女子の声が漏れ聞こえてくる。涼は周囲の視線にたじろぎ、少しうつむき加減になる。唇を噛んでいるようにも見える。
 特徴のある人間はそれだけで、おもちゃにされるか、つまはじきにされるのが学校という場所だ。先程まで、涼と親しげに話していた中学校時代の『保護者』の連中は、このクラスにいない。もし、涼が一匹取り残された子羊なら、これを狙わない狼はいない。涼がじっと何も言わないでいると、だんだんと無遠慮な声が周囲から投げられ始める。
「そこのかわいこちゃ〜ん、こっち向いてよ」
「イヤー、私のトオルちゃんを取らないで!」
 からかう男子たちの声と、それを可笑しがる女子たちの声が聞こえてきても、涼はその方を向かないようにしている。
 しかし、最初からいきなりネガティブな関係がクラス内で出来あがるとリカバリが大変だ。俺は何かすべきか考えながら涼のほうを向いたものの、掛ける言葉に逡巡する。俺の背中から「もう男を引っかけたのかよ」という声がかかってくる。
 残念ながら、俺は我慢強い人間じゃなかった。ええい、それなら逆手に取ってやろう。あれほど男同士のカップル扱いされていたことに憤慨した涼だから、きっといける。少し血が上った頭で、そう考えた。
「涼。」俺が声をかける。